■You gotta mail:2
夏美が夕食の支度をしながら、ふと外を見ると、ギロロが先程から固まったままのようだった。
「ちょっとギロロ、クルルのとこ行かないの?」
「あ、あ、あぁ……」
「私が伝言伝えてないみたいじゃない。早く行きなさいよ」
言ってもギロロは上の空だ。女の人からメールが来たことがそんなにショックなのかと、
夏美は不思議な思いだった。
ギロロに…女の人から、メール?
「あれ…」
何か胸に違和感を感じながらも、夏美は足元のギロロを抱き上げた。
そこでギロロは漸く声を上げる。
「おんわーっ」
「じたばたしないの、クルルのとこ行くわよ」
「夏美!?」
「後で色々言われたらイヤだからね」
「それはいいから、とにかく下ろせ!」
「嫌よ、あんたたち歩幅せまいから時間かかるでしょ」
言うなり夏美はギロロを小脇に抱え、基地へと大股で向かった。
そしてクルルズラボ。
「そんな大事に抱えて来なくても、伝えてくれるだけでよかったのによぅ」
「あっ!」
「んがっ」
夏美が慌てて放したせいで、ギロロは頭から着地した。
「ギロロ!ごめん」
「か、かまわん」
「くーくっくっく」
予想以上のオモシロ展開だぜぇ、とつぶやいて、クルルはキーを叩いた。
「プライベートなメールだからよぅ、先輩以外には見せちゃまずいんだけどな、
今回は特別だぜぇ〜。ぁポチっとー!!」
ボタンが押されると、目の前のモニターいっぱいに画像が映し出された。
「なに…これ?」
写真のようなその画像には、ケロン人の女性が微笑んでいた。
胸にはまだおしゃぶりをしている赤子が抱えられている。
特徴的なのは、赤子の釣り上がった目と赤い肌…そう、まるでギロロのような。
「これは…!!」
つぶやいた声に反応して夏美が目を向けると、その赤い顔がますます赤く、
汗までかいている。クルルがそこでメールを読んだ。
「本文:ギロロ、お久しぶりね。私は相変わらず。あなたの子も元気よ〜ん」
「んなっ、なんだと!?」
白目を向いてクルルに掴みかかった瞬間、背後で扉の閉まる音がした。
振り返ると夏美が消えている。
「誤解だ、夏美!」
「待てよおっさん」
走り出す背中に声をかけ、イスごと振り返った。
「恋愛相談でもする気かい」
「どういうことだっ」
―実は恋人を残して来てたとか?まさか結婚はしてないわよね?―
―恋愛相談ならまかせて―
トラウマスイッチの入ったドロロのように、一気に気力が抜けていく。
「貴様……聞いていたのか」
「まるっきり恋愛対象にない奴への言い方だよなぁ」
「ぐっ」
鼻をほじりながらつぶやかれる言葉が、ライフル弾のように胸を貫く。
「弁解したところで意味あんのかね」
「意味があるかどうかなど関係ない!誤解は解かねばならん。
そもそも貴様がくだらない嘘をつくからこんなことになったんだろうが!
責任を取れ責任を!」
「うるせーなー、んじゃこれやるよ」
ぽいっと投げられた物体は、きれいな放物線を描いてギロロの手に落ちた。
「これは……」