■Thousand wave:9
どれほどの時が過ぎたのか、もうわからなかった。
心細さに縮こまっていた心臓も、今はもはや落ち着いてゆっくりと動いている。
(諦めちゃだめ。ギロロが……ボケガエルたちの誰かが、きっと来てくれるから)
心につぶやいてみるものの、絶望感は消しようのないくらい大きくなっていた。
―――これだけ待っても、見つけてもらえないのだから。
何かを告げるアラーム音が、静寂を破った。
その電子音すら弱々しく聞こえる。
沈黙していたナビの音声が響いた。
「予備の酸素ボンベの残量が、ゼロに近づいている」
その声色にも、心なしか絶望の影が見える。
夏美はのろのろと瞼を閉じた。
「すまない、夏美」
まるで本物のギロロのように沈痛な声だった。
夏美の肩が震えて、両目からは涙がこぼれた。
「夏美……。少し聞いてくれるか」
夏美は返事をしなかったが、ナビは続けた。
「お前が本当に生命の危機に陥ったとき……厳密には計算上の生存確率が
3%を下回った時点で、お前に伝えるようプログラムされたメッセージがある」
「……ギロロから?」
「ああ。聞くか?」
夏美は首を縦に振った。
「了解。メッセージを再生する」
わずかなノイズの後、それは始まった。
『夏美。俺がふがいないせいで、お前を救ってやれないようだ。すまない。』
ナビの合成音声とはわずかに違う、温かみのある声が響いた。
夏美は安らいだように目を閉じる。
『最悪の事態は常に避けようと努力しているが、これを聞いているということは
……そういうことなのだろう。しかし、命ある限り、諦めずに運命と戦い続けて欲しい。』
「ギロロらしいな」
夏美の頬がわずかに緩んだ。
『あまり時間も無いだろう。俺から最期のメッセージを……
本当に伝えたかったことを、ナビに託す。
夏美、俺は「……つ……」を、あいし「……つみ……」だから、
頼むから、死な「なつみ……」くれ』
「「「夏美!!」」」
メットに何かがぶつかった。衝撃でとっさに目を開くと、
大きな黒目が夏美の視界をすべて塞いでいた。