■Thousand wave:8
夏美は宇宙空間を漂っていた。
自分の乗っていた宇宙船は、突然現れた別の宇宙船に衝突され、地球へと落ちていった。
かなりの衝撃だったのか、通信回線もノイズを伝えるばかりになってしまっている。
切れた命綱の先を見つめて息を吐いた。
「ナビ、聞いていい?」
「どうした夏美」
AIとはいえ、聞き慣れた声を耳にして涙が出そうになった。
ぐっとこらえて震える喉を落ち着かせる。
「地球に戻るには、どうすればいいの?」
「このスーツに大気圏突入能力は無い。通信回線の調子は悪いが、救難信号を出しておこう」
「届くかな……」
「大丈夫だ。ケロロたちがきっと助けに来る」
急に地球がとても遠くにあるように見えて、宇宙の広さを想い、体が震えた。
「振動を検知。寒いか?」
「ううん。……ねぇギロロ」
「私はギロロ伍長ではない。パワードスーツに搭載されたナビゲーションシステムだ」
夏美はナビの答えを無視して話し続けた。
「ギロロはなんで私のこと、なんでもわかるの?」
「……」
「私が危ないと思ったときは、それに備えて先回りして。
危険な状況のときは、必ず助けに来てくれて。……まるで王子様みたい」
―――王子様?あいつが?
言いながら、くすりと笑みがこぼれた。
ナビは何も言わないが、代わりに耳元でビーッとブザーのような音がした。
「予備ボンベに切り替わった。酸素残量が少ない。話は控えるべきだ」
「ギロロ……今回も、助けに来てくれるかな」
「ギロロ伍長はお前を必ず助ける。だから今は少しでも長く助けを待てるようにするんだ。
これ以降、省電力モードに移行。ナビゲーションシステムは休止する」
「……了解」
本当に一人になってしまった。
待つしか無いと言われても、心臓は不安で今にも潰れてしまいそうだ。
吐息がメットのガラスを規則正しいリズムで曇らせる。
それだけが、今の夏美が生きている証だった。