■Thousand wave:6
糊の効いた真っ白いテーブルクロスの上に、黄金に輝く一皿が載っていた。
うまそうなカレーだ。
白く立ちのぼる湯気に思わず頬が緩む。
座っている椅子が、早く食べろと急かすように尻を突いてくる。妙な椅子だ。
最初は気にならなかった突っつきが、次第に強く感じられ、クルルは思わず声を上げた。
「あっ、そんなピンポイントで突いちゃ……ってオイ!」
夢から覚醒した勢いでガバッと起き上がり、背後を振り返ると、
瓦礫の脇に、鳥小屋のような時計が落ちていた。
そこから真っ白な鳩が、パポ、パポ、と必死に飛び出しては引っ込むのを繰り返している。
「ちっ、お前かよ」
辺りを見渡せば雲のような虹色の物質が、周囲に広がる破壊の跡を霞んで見せていた。
天井には大きく穴が開き、そこから西日が差して、虹色の光の柱が何本も斜めに床まで延びている。
いたるところから木の根がはい出てきていた。
よく見れば、足元の鳩時計が新品のようになっている。
「少しでもアンチガスが効いたらしいな。戻ったのは100年分くらいってとこか」
その時、クルルは地鳴りのように低い振動に気がついた。
「うーん……」
少し離れて倒れていたモアの意識も戻ったようだ。
「あんごるちゃんよぉ」
「ふぇ?」
「この地鳴り、何かわかるか?」
モアはひび割れた床に手を付いて目を閉じた。
「ここは危険です……てゆーか地殻変動!?」
擬態を解除し、ルシファースピアに飛び乗ると、クルルをかっさらうように抱えて空中へ飛び出した。
「ちょ、待て!パソが!」
二人が飛び出した瞬間、大きな揺れがきて、激しい音と共に基地の天井が崩れた。
クルルは、唯一生き残ったノートパソコンが、必死で組んだプログラムを載せたまま、
瓦礫の下へ消えるのを呆然と見送っていた。