■Thousand wave:5


体にかかるGはパワードスーツのためか、ほとんど感じられなかった。
ただ振動だけが体を揺らし続けている。

『夏美殿』
「ドロロ?」

通信音に顔を上げると、正面の丸窓を小さな手が叩くのが見えた。

『巻き込んですまないでござる。時間が無いので手短に説明いたすゆえ』

夏美は黙って先を促した。

『このペコポンにテロ組織が恐ろしいガスを打ち込もうと計画し、
 我々はそれの迎撃にあたっていたんでござるよ。』
「地球を……守ってくれようとしたの?」
『しかし宇宙にいたギロロ殿も、上空のタママ殿も失敗。
 残る拙者が打ち落とすことになっているでござるが……』

ドロロはそこで言葉を切った。

「なに?」
『万が一失敗したときは、夏美殿が乗ったこのロケットが、作戦の要になる』
「どういうこと!?」
『そのときはクルル殿の指示に従って欲しいでござるよ。……時間でござる、では』

横揺れが一瞬激しくなったかと思うと、ドロロがバーニアで飛んで行くのが小窓から見えた。

「待って、ドロロ!」

夏美の声も虚しく、ドロロは姿を消した。
窓に張り付くようにして空を探すと、上空から迫る何かを待ち受けるように、
空中で停止しているドロロの姿が見えた。

「ドロロ!」

ぐんぐん遠くなるドロロに、突然大きな影が迫る。
それはこのロケットほどあろうかというミサイルだった。

ドロロが一太刀浴びせたように見えた後、何かを投げ付けると、
玉虫色の液体が弾頭を包み込むように広がった。
しかしミサイルは速度を上げ、液体の膜を突き破って進んでいく。

『くっ、だめだ!クルル殿、コクピットらしきものは切り離したでござるが、本体は……!』
『クーックックッ、仕方ねぇな、奥の手だぜぇ』

通信が切れると共に、夏美の周囲にあった計器が目まぐるしく光りはじめた。

「な、な、なに!?」

ロケットは急に加速すると、宇宙めがけて一気に高度を上げはじめた。


            * * * * *


しばらくすると振動が止まり、辺りは静寂に包まれていた。
夏美がきょろきょろと計器類を見回していると、目の前に小さな画面が表示された。

「……なんでお嬢ちゃんが乗ってんだよ」
「クルル!」
「ドロロ先輩だな?」
『すまないでござる』

通信が聞こえて、クルルは全て悟ったようにため息をついた。

「どーせギロロ先輩の差し金だろ。後で文句行っとくぜ」

クルルはヘッドフォンから手を放すと、夏美を見上げた。

「着弾まで時間がねぇ。とりあえずあんたはそこで待機、次の指示を待ってろ」
「クルルさん!まずいです、コースが!ここに直撃します!てゆーか、脳天直撃!?」
「あん?」

モニターの中でモアの声が響いた。クルルは素早くキーを叩いている。

「いや、少しそれる……が、衝撃でココが壊れるかもなぁ」
「あんた、そんな呑気に!」

夏美が叫ぶと、クルルはキーを叩き続けながら言った。

「俺様はいつだってマジだぜぇ?ショックフィールド展開!アンチサウザンガスを噴霧!」
「アンチガス、残量ほとんどありません!」
「あー、全部積んじまったからな。とりあえずありったけまいときな。無いよりマシだろ」
「了解です!」
「クルル……モアちゃん」

夏美は拳を握った。モニターの向こうの出来事に、自分はなにも出来ない。

「心配してくれんのかい?んじゃ戻ったらスク水写真でも撮らせてくれよな〜……ククッ」
「バカ!」
「着弾来ます!3……2……1!」

衝撃音を聞くこともなく、モニターが砂嵐になり、通信は途切れた。

「クルル!モアちゃん!」

夏美は砂嵐に向かって叫び続けたが、返事が返ってくる気配は無かった。


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