■Thousand wave:4


夕暮れの空を、肥大した太陽が燃えるような橙に染め上げていた。

夏美は人気のない道を、太陽を背に走っていた。
その速さは足元に伸びる影を追い抜こうとしているかのようだ。

ようやく日向家の門にたどり着くと、膝に両手を付いて荒い息を整え、まっすぐ庭へと向かう。

「ギロロ!ボケガエルは!?」

しかし、呼びかけに振り返ったのは、夕陽で浅葱色に染まったドロロだった。
その後ろには、家の屋根に届くほどの高さをした、ロケットのようなものが立っている。
それを見て、夏美の眉がさらにつり上がった。

「夏美殿!」
「ドロロ、ボケガエルたちは?また何かする気なんでしょ!」
「そ、そんなことより、今は避難勧告が出ているはずでござる!なにゆえここへ?」
「授業が終わったら突然、みんな西澤家のシェルターに避難しろだなんて、おかしいじゃない。
 桃華ちゃんに聞いたらやっぱりタママからのお願いだって言うし!どうせまた何か企んでるんでしょ!」

つかみ掛かりそうな勢いの夏美に、半ばのけぞって聞いていたドロロだったが、
一瞬目を細めるとクナイを夏美の頬すれすれに投げた。

思わず声を上げた夏美の後ろで、低いうめき声とともに鈍い音がした。
夏美が振り向くと、塀のすぐ手前に人型の宇宙人が落ちていた。

「なにこいつ!?」
「もう間に合わないでござる。夏美殿、これを!」

ドロロは何かをすばやく投げてよこした。

「これは!」

手の中には見慣れたスカルマークのスイッチがあった。
塀の上には、一人目が倒れたのを引き金に、仲間と思われる者たちがどんどん登って来ている。
敷地に入れまいと応戦するドロロを見て、夏美は迷わずスイッチを押した。

「うちに無断で入るなぁーっ!」

ドロロに続き、一人、また一人と敵を打ち倒していく。
相手の数もだいぶ減り、夏美とドロロは塀の上で背中合わせに立った。
その瞬間、通信が耳に入った。

『こちらスカル1、敵と交戦中!ガス弾を取り逃がした!クソッ……
 繰り返す、宇宙空間でのミサイル迎撃には失敗した!』
『了解!タママ二等、我らの出番でありますよっ』
『はいですぅ!』

「ちょっと、どういうことなのよ、ドロロ!」
「しばし待たれよ」

ドロロは刀を構え直し、ひと睨み敵を見渡した。
敵の一人が怯えたように、ちらりと腕の時計らしきものを見た。

「ちっ、そろそろ時間だ、退くぞ!」

敵たちは後ずさり、倒れた仲間を抱えて逃げていった。

「ギロロ殿の言った通りでござるな」

ドロロが小刀を鞘に収めながら呟いた。
夏美は眉を寄せる。

「夏美殿はきっとここに来る、そう言っていたんでござるよ」
「ギロロが……? 一体、何が起こってるの?」

その時、またしても通信が話を遮った。

『わぁぁ〜、ごめんなさいですぅ!避けられたですぅ!』
『なんですとぉー!?クルル、アレ無人の動きじゃないであります!』
『まさかのカミカゼってやつかい?泣けるねぇ〜』
『ドロロ!頼むであります!』
「承知!」

夏美には何やらさっぱりわからないやりとりの末、ドロロは夏美に向き直った。

「で、何なのよ!」
「―――御免!」

ドロロは突然夏美を抱え上げると、庭へと走り出した。

「ちょ、ちょっと!」

そしてロケットの脇に優しく降ろすと、突然の出来事に驚く夏美を中へ押し込み、
何やらスイッチを押して扉を閉めてしまった。

「ドロロ!どういうことよ、こら!出しなさい!」

丸い形の窓の前で、ドロロはすまなそうに笑うと、一瞬にして鬼式装備を纏った。
そしてロケットの脇に付いているバーに足をかけ、機体にしがみつく。
エンジンが点火され、周囲は煙に包まれようとしていた。

「ドロロ、参る!」

夏美とドロロを載せたロケットは、空から迫りくる小さな点をめがけて飛び立った。


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