■Thousand wave:2
ギロロはナイトキャップを被ったままのケロロを、床に放り投げた。
引きずられてきたケロロは、その寝ぼけ眼にガルルの顔を映すと文字通り跳び上がった。
「ガルル中尉!?本日はまたどのようなご用件で……」
「就寝中に申し訳ない。実は現在、ペコポンが厄介な相手に狙われていることがわかりましてね」
「厄介な相手?」
「事態は緊急を要する。手短に説明しよう。クルル曹長」
ガルルが促すと、モニターが切り替わった。
そこに映ったのは、一面の森林だ。中心にツタをまとった塊が見える。
よく見れば、金属を繋ぎ合わせたモニュメントのようだった。
それに気付いたギロロは息を飲んだ。
「まさか、これはメカトラム星!」
クルルがいつもの笑い声をたてたが、声色は笑っていない。
「そのまさかだぜ。メカトラム星の侵略には、ギロロ先輩も参加してたよなぁ?」
「メカトラムは機械化された星だ!植物は何百年も前に絶滅していたはずだ」
その通り、とクルルは頷く。
「侵略後、ケロン軍は絶滅植物の再生と、星の緑化に努めてきたんだがなぁ……
これじゃまるでジャングルだ。あらゆる機関が麻痺するレベルだぜぇ」
「そうだ。そして実際、メカトラム星駐留部隊は全滅した」
ガルルの冷たい声に、戦慄が走った。
「全滅……だと!」
「調査団の報告によれば、これほどの緑化が一晩で成されたらしい。
部隊はさぞ混乱しただろう。そこをやられたようだ」
「不可能だ!一晩でこんなに植物を生やすなど!それに一体誰がやったというんだ」
モニターが元に戻り、ポーカーフェイスのガルルが答えた。
「犯人はテロ組織・オールドブルー。使用したのは『千年ガス』と呼ばれるものだ」
「千年ガス?まさか!」
ギロロの顔が青ざめて紫がかった赤になった。
クルルは再度、わざとらしく笑った。
「千年ガスを知ってるとは、さっすが先輩。武器・兵器マニアなだけあるぜ〜。
ご存知の通り、このガスは散布するだけで星の状態を千年ほど戻すってシロモノだ」
「しかし!製造に成功したと言われていた星は、そのガスの実験で逆に千年ほど後の
状態になって荒廃し、滅んでしまった……それ以来、研究も条約で禁止されている」
「ま、テロやるよーな奴らがそんな条約守るわけねーよな」
しかし、テロをやるような奴らにそんな頭があるとも思えない。
ギロロの顔を見て、ガルルが頷いた。
「普通はただのテロ組織には無理なことだ。しかし、オールドブルーは千年ガスの研究者だった男、
あの星の唯一の生き残りを捕らえたようだ。そして製造に成功した」
驚きの事実に、全員がしばし沈黙した。
口火を切ったのはクルルだ。
「俺が聞いてたのはそこまでだ……それで、俺らに話が回ってくるってことは」
「次のターゲットはペコポン、でありますな」
それまで一言も口をきかなかったケロロが、まっすぐ立ってガルルを見据えて言った。
ガルルは後ろ手に腕を組む。
「お察しの通り、奴らにはケロン星に敵対する星が援助に動いているらしい。
ケロン軍が侵略中の星がテロに遭ったとなれば、本星の面目は丸つぶれだからな」
「それに近年、自然破壊の著しいペコポンを千年前に戻すなんざ、
感謝こそすれ反対する奴なんかあんまりいねーしな」
「ここにいるでありますよ」
低く震えるような声色で、ギロロは幼なじみが相当に本気で怒っているのを感じた。
「そして厄介なことに、既に奴らがペコポンへ向かっているとの情報を得た。
座標はクルル曹長に転送しておく」
「もう来ると言うのか!」
焦りってたじろぐギロロを、ケロロは右手を挙げて制した。
「ガルル中尉、情報感謝であります!」
おざなりに敬礼すると、ケロロはクルルとギロロに向き直った。
「ケロロ小隊全員招集!作戦は全員集まってから説明するであります!」
「既に作戦があるのか!?」
驚きと興奮の入り混じった顔で問うギロロに、ケロロがニヤリと笑った。
「千年前なんてガンプラないじゃん!そんな世界、我輩が許すわけないでありますよ」
ゲロゲロリと笑うケロロに、ギロロはがっくりと肩を落とした。