■Thousand wave:1


青白い光りの満ちたラボから、絶え間無く聞こえていたタイピングの音が途切れた。
クルルはふと顔を上げる。
アナログ表示の壁掛け時計は短針が4のあたりを指していた。

「ちっ、これじゃ昼か夜かわからねぇじゃねーか」

年代物の時計は悪友(ダチ)からのプレゼントだ。
定時になると小さな窓からハトのおもちゃが飛び出す。
その間抜けさが、クルルはとても気に入っていた。

手元に視線を戻すと、ぷるぷると頭を振る。
次の侵略作戦のため、ボンクラ隊長にお願いされた作業は終わりに近づいていた。
しかし作業に没頭するあまり、本当に今が昼夜いつなのかわからなくなっていたのだ。

久々に外の様子でもモニターしようかと、スイッチに手を伸ばしかけた時、
通信を表すアラームが鳴った。
エンターキーを押すと、相手がモニターいっぱいに映し出される。

「クルル曹長、早朝に失礼する」
「! あんたか」

どうやら今は朝らしい。
そんなことを思いながら、紫色の顔を目の前にして、驚きを隠すようにわざと椅子にふんぞり返った。

「また厄介事ならごめんだぜぇ」
「その様子では、まだご存知無いようだな」
「……ク?」

嫌な予感にいつもの笑みが凍りつく。
クルルはふいに寒さを感じ、身を震わせた。
こんな地下にあるラボにも、朝のひんやりとした空気が流れ込んで来たようだった。


            * * * * *


自分を取り巻く大気が急に軽くなった気がして、ギロロは空を見上げた。
厚い雲の切れ間から、朝焼けの空がバラ色の顔を覗かせている。

周囲もいつのまにか、夜の重い空気を脱ぎ捨てていたようだ。
鳥が一声鳴いて、東の方へと飛び去っていった。

「よう、先輩。起きてたか」

朝一から耳障りな通信が耳に響く。ギロロは眉間にしわを刻んだ。

「なにやら胸騒ぎがしてな。夜明け前から起きていたが」
「……ちっ、勘の良いおっさんで助かったぜ。今すぐ基地に来てくれ」
「舌打ちをしながら“助かった”とは言ってくれる」

とは言ったものの、意外に余裕の無い声に、戸惑いながら腰を上げた。

「ついでに隊長も連れてきてくれよな」
「……了解」

まだ爆睡中のケロロをたたき起こす手間を思い、ため息をつきながら、地下へ急いだ。


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