■夕立ち:2


地球人スーツを着、夏美の傘を持って家を出ると、ちょうど帽子を雨粒が叩きだした。

「しまった、もう降り始めたか」

その時、ギロロは自分が夏美のピンク色の傘一本しか持っていないことに気づいたが、家に戻る時間が惜しかった。
なにせ、ギロロの脳内ではびちょびちょの夏美が危険に晒されているのだ。
そうでなくても、軍人であるギロロは雨に打たれることなど慣れたもの。
そのまま全速力で走り出した。

とたんに雨脚が強くなる。ジャングルのスコールのような雨に視界を遮られながらも、ギロロは必死で駆けた。



もうすぐ学校に着くというところで、制服を着た赤い傘とすれ違った。

「ギロロ!?」

聞き慣れた声に急ブレーキをかける。振り返ると、夏美が赤い傘をさして立っていた。
なぜ、という思いと、荒い呼吸で言葉が出ない。

二人はしばし見つめ合った。

やがて夏美から歩み寄り、自分より身長の高くなったギロロの頭へ傘をさしかける。
そして下を向き、ギロロの右手にしっかりと握られたピンクの傘に視線をやった。

「迎えに来てくれたの?」

ギロロの呼吸はおさまってきていたが、今度は夏美の顔が近くにあることで、
動悸が早くなってきていた。

「傘、を……お前が、傘を忘れたと、ケロロが言っていた」
「置き傘してたの。試合も雨が降りそうだからって、中止になっちゃったし」

夏美はギロロの帽子の先から、ぽたぽたと垂れる雫を見て笑った。

「ずぶ濡れじゃない、傘さしてくればよかったのに」
「軍人は作戦中に傘をさしたりなどしないからな」
「いま、作戦中なの?」
「それだけ慣れているということだ」

まあいいわ、と言って、笑顔の夏美はギロロの手を取り、自分の傘の柄を押し付けた。
代わりにギロロの手にある、ピンクの傘を取る。

「せっかくだから、こっち使うね。ギロロには、これ貸してあげる」
「あ、ああ」
「早く帰ろ。風邪ひくわよ」

ピンクの傘を、慌てて赤い傘が追いかけた。



ちなみに、この後ケロロがどんな目にあったかは、想像に難くない。



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