■夕立ち:1
夕方になると、日中の茹だるような暑さも幾分やわらいでくる。
ギロロ伍長はテントの前のブロックに腰かけ、空を見ていた。
いつもより、暗くなるのが早い。西の空を見ると、黒々とした雲に覆われていた。
「雨になるな」
鼻のありそうな辺りをうごめかして言う。
この暑さには良い熱さましになるが、2階を見ると窓が開けっ放しだ。
ギロロは先日、冬樹がそのことで姉に怒られていたのを思い出した。
日向家のリビングに続く掃き出し窓に手をかける。
「冬樹、帰っているか」
「冬樹殿なら桃華殿のお宅に遊びに行ったでありますよ」
返事をしたのは、机いっぱいにガンプラのランナーを広げたケロロだった。
「そんなことをして、またどやされるぞ」
「大丈夫、夏美殿なら今日は部活の助っ人だもんね〜」
ギロロはため息をつきながら上がり込んだ。
「どこへ行くんでありますか」
「夕立ちが来そうだ。冬樹の部屋の窓を閉めてくる」
階段を上り、冬樹の部屋の窓を閉めると、他の窓も全て確認し、下へ降りた。
ケロロは相変わらずプラモの組立てに忙しそうだ。
説明書を睨むその横を通り抜けて庭へ戻ろうとすると、声をかけられた。
「窓は全部大丈夫でありますか」
「ああ、上は全て確認してきたが」
「ついでに下の階もお願いするであります」
ギロロのこめかみに血管が走る。
「貴様が見ればいいだろう」
「見ての通り、忙しいんでありますよ。これは隊長命令であります」
「そんなことで隊長命令を使うな!」
舌打ちをしながらも、ギロロは各部屋を歩いて回った。
「終わったぞ!」
ドスドスと足音を立てながらケロロの横を過ぎると、またしても声がかかった。
「んじゃ今度は夏美殿のお迎えね」
「なにぃ!?」
「夕立ちがくるんでありましょう?そんな予報じゃなかったし、傘持ってってないはずだもん」
「まだ帰らないから貴様はこうして呑気に遊んでいるんじゃないのか!?」
ノ・ノ・ノ……と指を振る仕種が、ギロロを余計に苛立たせる。
「今日はソフトボール部の応援だから、雨が降ったら中止でありますよ。
だいたい、ギロロは夏美殿がずぶ濡れでスケスケの制服で帰って来てもいいんでありますか?」
ギロロの頭の中で、透けたブラウスを着た夏美が男に絡まれる図が、一瞬にして出来上がった。
―――助けて、ギロロ!
「行ってくる!!」
瞳に炎を宿し、出ていくギロロをケロロは邪悪な笑みで見送った。
「ゲロゲロリ……ただの通り雨程度じゃ、きっと試合は中止にならないであります。
終了まではまだまだ時間があるはず!」
言いながら、握ったパーツのダボを斜めにパチンと切る。目の前にかざして、
その切り口を目を細めて見た。
「うるさい赤ダルマもナツミゲドンもいない今、日向家は我輩の天下であります!
作業もはかどるはかどる〜」
外は雨雲のせいですっかり暗くなり、遠くで雷鳴が響きはじめていた。