■Stay on the beach:3
しかし、ギロロがいくら操作しても、ソーサーはぴくりとも動かなかった。
「まさか、壊れたの?」
「わからん」
一度降りてギロロが点検を始めると、通信が入った。
「俺だ」
「ギロロー!早く戻って来るであります!」
「どうしたんだ」
「どーもこーも!突然ヴァイパーが来て、戦闘中でありますよ!」
「なにぃっ」
通信の向こうから、銃やら爆発やらの音が聞こえる。
「我輩たちのソーサーはガスが抜かれてて使い物になんねーし!
敵は空中からこっち狙い撃ちだしで、どうしよーもない……って危なっ……ゲローー!」
突然ボケガエルの叫び声が聞こえて、通信が途絶えた。
「ケロロ、おいケロロ!」
ギロロが叫んでも応答がない。通信を切り、改めてソーサーを確認してからギロロが振り返った。
「おれのマシンも、ガスが抜かれていたらしい。ここまで来られたのもラッキーだったくらいだ」
「大丈夫なの……ボケガエルたち」
「最悪、モアもいるし心配はないだろう」
そう言いながら、ギロロは私に背中を向けた。
そんなこと言っても、後ろ姿でほんとの気持ち、わかっちゃうんだから。
今すぐにでも飛んで行きたくて、肩が震えてるよ。
私はなんとなく放っておけなくて、手を伸ばした。
「夏美?」
そのまま肩に手をかけて、腕の中に引き寄せる。
「んなぁっ!?」
「心配、なんでしょ」
ギロロは私の手の中で、頭から湯気を立てていた。本当に女の子に免疫無いよね。
私はそれが、私の手の中だけで起こることだなんて知らなくて、そんなギロロを微笑ましく見ていた。
「ギロロならここから泳いで戻れるよね」
「お前を置いていけん」
「私は大丈夫、足の痛みが治まったら泳いで帰るわ」
それだけ言ったところで、ギロロは振り向いた。私を見上げるのは、まっすぐな瞳。
「お前は自分が思っているより、ずっと疲労している。泳ぐのは無理だ」
「そんなことない!」
でもギロロは首を振る。
「だめだ。しかし……」
ギロロは言いかけると、少しためらってから、いつも武器を出すように、
手元にペットボトルと毛布を転送した。
「俺が戻ってヴァイパーを倒し、すぐにお前を迎えに来る。それまで、待てるか?」
私は真剣な顔で頷いた。
「待ってる」
よし、と頷き返すと、ギロロは私に毛布を押し付けた。
「俺が武器庫の作業中に時々使っていたものだ。グリースなどが付いていて清潔ではないが、
風よけ程度にはなるだろう。しっかり体に巻いておけ。
このペットボトルの水は非常用に俺が常備しているものだ。問題ない。」
「うん、ありがと。それより急いで」
「すぐ戻る!」
最後の言葉のあたりには、もうギロロは海の中だった。