■Stay on the beach:4


風が冷たくなってきて、私は毛布を広げて羽織った。
ギロロの言う通り、黒い油染みがたくさん付いていて、機械油みたいなのがまだ乾かずに、
べっとりしている所もある。
それでも私はそれを、すき間ができないようにしっかり巻いた。
いつもなら、こんな油くさくて汚い毛布、願い下げなのに。

「ギロロの……匂いがする」

この匂い、なんかほっとする。ギロロが側にいるみたいだった。
自分の体ごと毛布を抱きしめると、膝に頬を擦り寄せた。

あいつ、いつも実験台とかにされてるくせに、こういう時には飛んで行かずにいられないんだ。
私のことも、いつだって助けてくれるし。

いいとこあるのよね。

帰ったら、何かお礼しなくちゃ。ボケガエルの分も、何かしてあげよう。

暑い日が続くから、スターフルーツを入れたゼリーでも作ろうかな……



目を開けると、今度は周りが薄暗かった。
かなり日に焼けたみたいで、鼻と頬のあたりが熱を持ってひりひりしている。
私はベッドに寝かされていて、薄い上掛けをどけると、
水着の上にギロロの毛布を巻いたままだった。

どうやら、いつのまにか助けられていたみたい。
私の寝ていたベッドに、モアちゃんが寄りかかって寝ていた。

「付き添っててくれたの……?」

時計が無いからわからないけど、もう夜なのかな。
ベッドから降りようとすると、入り口のドアがそっと開いた。
逆行で顔が見えなかったけど、それが誰なのかはすぐにわかった。

「ギロロ」

ギロロはモアちゃんをちらっと見てから、私にベランダの方を指差した。
私が痛む足をかばいながら立ち上がると、ギロロが横に来て手を伸ばしてくれる。
伸長差があるからあんまり意味がなかったけど、その気持ちが嬉しくて、
私はギロロの手を取ってベランダへ出た。

海は穏やかで、月が海面に光って見える。規則正しい波の音が気持ちよかった。

「すまん」

ギロロは手すりに登って、月を見上げた。

「あの後、ヴァイパーを倒すのになかなか手間取ってな。
 お前を迎えに行ったら、浜辺で倒れているのが見えた。
 熱中症かと思い、慌てて手当てをしようとしたが、
 眠っているだけだったので部屋で寝かせることにしたんだ」

その言葉に、思わず頭を抱えた。

「あたし……今日寝すぎじゃない?」
「泳ぐことは想像以上に体力を消耗する。疲れていたのだろう」
「そうかなぁ」
「モアは疲れている中、お前が心配だからと言って、付き添っていたんだ。
 あいつも寝てしまったようだが、後で礼を言うんだな」
「うん、言っとく。」

部屋のモアちゃんに目を向けてから、私はギロロに向かい直った。

「ギロロにもお礼言わなきゃ。ありがとね」
「礼を言われるようなことは何もない。ガス欠にも気付かず飛び出して、あの有様だ」

ギロロは下を向いた。

「そんなことないわ。私、あのとき心細くて……だから、ギロロの声が聞こえたとき、
 すごく嬉しかった。ちゃんと約束守って迎えに来てくれたし。
 だから、ありがと。ギロロ」
「……フン」

薄暗い中でも、顔を逸らしたギロロが赤くなっているのが分かって、自然と笑顔になる。

「あと、この毛布もありがとう」

言いながら、返そうと思って身体から外した瞬間、吹き上げる潮風に乗って、
毛布に染み付いたギロロの匂いが私を包んだ。

それで急に思い出したけど……
私、これに顔を摺り寄せて、その匂いに安心したまま眠っちゃったってこと?

「夏美?」

毛布を受け取ろうと、手を伸ばしたギロロが首をかしげた。

「顔、赤くないか?」
「えっ、あっ、日焼け!日焼けよ。あんなとこで寝ちゃったから、痛くて!
 鼻の頭とか、皮むけちゃうわね、さいあく〜」
「そうか?具合が悪いんじゃないのか」
「だ、大丈夫!とにかく、これ、ありがと」

押付けるようにして毛布を渡したとき、部屋の明かりが付いたのが見えた。

「ゲロー!夏美殿、どこ行っちゃったでありますか!?」

騒がしい声に、私とギロロは目を見合わせて、二人同時に笑った。
もうちょっと、ここでギロロと話していたい気もしたけど、ボケガエルにも迷惑かけたし。

話の続きは今度、うちの庭ですることにしよう。今日みたいに、二人で月を見上げながら。


■Stay on the beach:END

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