■素直に握手:2


「待って、ギロロ!」
「夏美!?」

夜空を飛んでいたギロロは、皆の前で堪えていた涙を慌てて拭った。
しかし振り返るとそこにいたのは、大きな紙飛行機に乗ったサブローだった。

「よっ」
「まぎらわしい呼び掛けをするな!」
「あの状況で夏美ちゃんが追いかけて来るはずないだろ」
「うっ、うるさい!」
「まぁまぁ。ちょっと話があるんだ。聞いてくれたら後でプレゼントあげるからさ」
「ケロロじゃあるまいし、物につられるか」
「変な話じゃないって。夏美ちゃんのこと」
「ぬぅっ……」

それを聞いて、ギロロは渋々ソーサーを下降させた。
そこは土井中海岸とは少し離れた海岸の、灯台に近い浜辺だった。

ギロロとサブローは海に向かって並んで座る。

「なんだ、話というのは」
「うん、さっきはありがとう」

礼を言うサブローを、ギロロはいぶかしげに見る。

「俺もあそこにいたからさ、夏美ちゃんたちの変化に気づいたんだ。
 だけど何もできなくて……だからあの二人のぶんも、お礼を言うよ。」
「そんなことのために、わざわざ追いかけてきたのか」
「ああ、悪い?」

屈託の無いサブローの笑顔に、ギロロは脱力する。

「とんだお人よしだな」
「だって俺、ギロロのこと好きだし」
「すっ、好きだと!?」

目を丸くしたギロロを見てサブローが大声で笑った。

「すぐ本気にする!そーゆーとこ好きなんだよね〜」
「大人をからかうな!」
「いーじゃんおもしろいんだから。もっとも、ギロロは俺のこと嫌いかもしんないけどさ」 「なんだと」

ギロロはサブローを見た。サブローは暗い海を見つめたままだ。

「夏美ちゃんが原因なのはわかってるよ。
 俺も夏美ちゃんが憧れてくれてるのは、悪い気はしない。
 かわいいしね。でも、好きとかって気持ちはまた別だろ?」
「何が言いたい」
「俺が夏美ちゃんの気持ちを嬉しいと思うのと、好きなのとは違う。
 夏美ちゃんも、俺に向けている気持ちは好きってのとは違うと思うんだ」
「憧れと……恋の違いか」

サブローは目を丸くしてギロロを見た。

「わかってんじゃん」
「以前、夏美が言っていたのを聞いたことがある。」

ギロロは言いながら、以前夏美とエレベーターに閉じ込められた時のことを思い出した。


   『もし……ギロロが、王子様……だったら』


思い出して赤くなると、サブローはそれを見て楽しそうに笑った。

「なぁんだ、心配するだけムダだね」
「な、なんだ」
「なんでもない。じゃ、ギロロも俺にイライラするのはお門違いだって、わかった?」
「むぅ」

黙り込んだギロロを見て、サブローは微笑む。

「まぁ、そういうことだから。仲直りの握手、しようぜ」
「握手ぅ?」
「いいから、ハイ、あーくーしゅ」

サブローは勝手にギロロの右手を掴むと、実体化ペンで手の平に何かを書いた。

「何をする!」
「プレゼントその1。騙されたと思って、この手で夏美ちゃんに触れてみな」
「何を書いたんだ」
「おっと!見るなよ。男同士の約束だぜ。ギロロなら守れるよな」

ギロロは眉間にシワを寄せたが拒否はしなかった。

「よし、これで俺の話は終わり。最後まで聞いてくれたお礼に、プレゼントその2をあげるよ」
「もう得体の知れない物は要らん」

ギロロは立ち上がり、ソーサーへと歩いて行った。
サブローは実体化ペンでメモに何か書きながら言う。

「夏美ちゃん、お花好きなんだって」
「はぁ」
「知ってた?」

言いながらサブローがメモを書き終えると、その手に一抱えはある花束が現れた。

「どーぞ」
「俺にか!?」
「ばーか、夏美ちゃんにだよ。よろしく伝え……なくていいや。ちゃんと誤解解きなよ。じゃね」

ギロロが花束から顔を上げると、既にサブローは紙飛行機で飛んで行ってしまっていた。

「よくわからん奴だな」

ギロロの体くらいはあろうかという花束をなんとか持って、ギロロはソーサーに乗った。

「……話してみるか」

満点の星の下、ギロロのソーサーが飛び上がった。


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