■素直に握手:1
照明が壊され、暗闇の中、会場は大騒ぎになっていた。
すぐに予備のライトが点灯したが、ステージから3人ほど消えていることに気づいた者はいないようだ。
ケロロたちはその頃、すでに砂浜を走っていた。夏美と小雪はバスタオルを巻いている。
「このへんで、もう大丈夫でありますか」
先頭のケロロが息を切らして立ち止まった。
いつのまにか海岸の端まで来ていたようだ。
「全員揃ったでござるか?」
「フッキーとクルル先輩がちょっと遅れてたですけど……」
「みんな、待ってよぉ」
そこへ冬樹と、クルルを抱き抱えたサブローが走ってきた。
「サブロー先輩!?」
「やぁ、偶然通りかかったらこの二人を見つけてね。
クルルがもう走りたくないって言うから運んであげたんだ」
「さすがサブロー先輩、優しいんですね」
「いや、ところでそれ、どうしたの?」
サブローに指刺されて、夏美は改めてバスタオル一枚だったことに気づいた。
「きゃあっ、これは、そのっ」
そこへ同じくバスタオル姿の小雪が割って入った。
「いろいろ大変だったけど、ドロロが助けてくれたんですよ。ありがとね、ドロロ」
「そうだったわね。ありがと、ドロロ」
小雪と夏美に声をかけられてドロロは頬を赤らめながらにっこりと笑った。
「大事なくて何よりでござる。拙者よりもギロロ殿が……」
「あー、そういえば冬樹、あんたなんて格好してんのよ?」
夏美に見事に遮られ、ドロロは涙目になった。
一方冬樹は走っているあいだにカツラが消えており、ビキニの胸を外しているところだった。
「これはえっと……伍長がね」
「ギロロが!?」
サブローの出現で不機嫌そうに腕を組んで端の方に立っていたギロロは、
突然名前を呼ばれて飛び上がった。
「な、なんだ?」
「あんた、控室に入れなかったからって、冬樹を女装させて何するつもりだったの……?」
その迫力は、幼い頃に冬樹を守りつづけたという、伝説のデビルサマーの名前に
ふさわしいものだった。
「ま、まて夏美」
「最低!このエロダルマ!この銃の効果だって、あんたがわざとあんな時に切らせたんじゃないの!?」
「違う!」
「まあまあ夏美殿、これには訳が」
「ボケガエルは黙ってて!もういいわ。小雪ちゃん、着替えにいこっ」
「待て夏美!」
夏美はギロロをキッと睨むと行ってしまった。
ギロロはトラウマ状態のドロロのように、闇夜でさらに暗い影をまとっている。
夏美たち以外の誰もが、今回のギロロの奮闘や活躍をわかっているだけに、
全員が気まずい思いだった。
「ごめん、伍長。僕が名前を出しちゃったから」
「……お前は間違ったことは言っていない」
「だけど誤解させちゃったのは事実だよ」
ギロロは顔を上げ、表情を崩すと、しゃがみ込んでいた冬樹の肩に手をかけた。
「ああなると夏美は聞く耳を持たん。弟のお前が一番よくわかってるだろう。
今回はあいつが恥をかかずに済んだ、それだけで良いんだ」
「伍長……」
「皆もすまなかったな。夏美は俺の顔も見たくないだろう。先に帰る」
ギロロはそう言うなり、ソーサーに乗って星空に消えてしまった。