■侵略のヒケツ:2
階段を下りると、秋はそのままリビングから庭へと向かった。
窓を開けると、ギロロがちょうどベランダから物置の屋根づたいに飛び降りたところだった。
「ギロちゃん」
二人の視線が合う。両腕に芋を抱えたギロロは、すぐに秋から目を逸らした。
「勘違いするなよ、ただ俺は敵の様子が気になってだな……」
秋はギロロに駆け寄ってしゃがむと、顔の前で両手をぱんと合わせた。
「お願いっ!」
ネコダマシのようなその音にギロロがのけ反る。
「お、おい、何……」
「夏美のこと、見ててあげて」
「はぁ?」
秋が自分に急な仕事が入ってしまったことを話すと、ギロロはまんざらでもない様子で頷いた。
「お前がそこまで言うなら、俺が夏美の様子を見てやろう」
「あと、もう一つだけお願いがあるんだけど」
「ん?なんだ、言ってみろ」
秋は下唇に指を当てると、上目遣いに笑った。
* * * * *
「じゃ、頼んだわね」
秋はメットを被りながら、門柱に立つギロロに視線を投げた。
「約束を忘れるなよ」
「約束?」
「とぼけるな!このミッションが完了したら、《地球侵略のヒケツ》とやらを教える、という話だ!」
「ああ、それね」
わざとらしく言いながらバイクに跨がる。
「さっき教えたじゃない」
「なんだと!?さっきのはお前の……」
「ギロちゃん」
秋はメットのバイザーを下ろした。その中で瞳がきらりと光る。
「夏美のこと、好きよね」
突然の問いに、心臓が口から飛び出そうになった。
「な、な、お前、俺は侵略者だぞ!」
「それならなおさら。夏美も、地球も。欲しいなら、侵略してみせなさい。」
バイザー越しでも感じる凄みのある笑顔に、ギロロは息を飲んだ。
「ただし、この私の娘と、この私が済む星。簡単じゃあないわよ」
「あ、秋……!?」
「じゃ、いってくるわね」
秋はそれだけ言うと、バイクをスタートさせて行ってしまった。