■Ration reration TypeG:4
ギロロは夏美の腕から飛び降り、バズーカをその手に転送すると、
追い詰めた自分達に飛び掛かろうとするネコの顔にためらうことなく発射した。
「ギロロ!相手はネコちゃんなのに!」
「心配いらん、ペイント弾だ」
「にゃー!」
ネコの額にピンクの液体が張り付き、伸ばしかけていた前脚で顔を洗うような仕種をする。
「クルル、とにかく何か方法を考えてくれ」
「仕方ねぇな、高くつくぜぇ」
「元は貴様が悪いんだろうが!」
「ククッ、腹の中からレーションが無くなりさえすりゃ、すぐに戻るはずだ」
「具体的にどうする!?」
ネコのペイント弾が取れかけていた。毛を逆立ててうなっている。
「吐かせるしかねぇんじゃね?一気に大量の水を飲ませりゃ、レーションくらい出て来るだろ。」
「無茶を言う」
完全にペイント弾をぬぐったネコが、不機嫌そうにギロロを睨む。
「夏美」
ギロロは手にしたバズーカを夏美に渡した。
代わりに自分は新たにロングレンジライフルを手にする。
夏美がバズーカのグリップを確かめながら言った。
「どうすればいいの?」
「俺が合図したら左に跳んで、それをネコの顔めがけて打ってくれ。
俺はこのロングレンジウォーターガンを口に突っ込んで発射する。」
「了解」
夏美は頷いてバズーカを構えた。
ネコは二人を見据えて前傾姿勢を取っている。
そして一瞬、頭をぐっと低くした。
「今だ、夏美!」
夏美が跳ぶのと、ネコが跳び上がるのは同時だった。
ネコがギロロに触れる前にペイント弾が着弾し、一瞬怯んだ隙をギロロは見逃さない。
「こいつを食らえ!」
飛び掛かってきた勢いを利用し、ライフルを喉奥まで突っ込むと引き金を引いた。
「にゃごっ!」
一気に大量の水が流れ込み、胃に入りきらない分が逆流する。
ギロロは発射の反動と水に押されて吹っ飛んだ。
ネコも逆に吹っ飛ばされて、巨大な頭で塀をなぎ倒しながら仰向けに倒れた。
「ギロロ!」
夏美が駆け寄ると、ギロロは頭を打ったのか、ふらつきながらも立ち上がった。
「お、俺はいい、ネコを」
その言葉に振り返ると、水溜まりの中で横たわった小さなネコが見えた。
「ネコちゃん!」
ギロロは耳元の通信スイッチを押して言った。
「クルル、ネコは今溺れたも同然。手当を頼む」
「あいよ。最短ルートで持ってきな」
ギロロはネコを夏美から受け取り、物置の中にある地下基地への緊急ルートを使って
ラボまで送り届けた。
クルルは素早く医療ポッドにネコを入れると、キーを叩きながら言った。
「先輩が一瞬で決めたから、溺れたことを気付く間もなく気絶したようだぜ」
「当たり前だ」
ギロロは腕組みをしてネコの入ったポッドを見上げる。
「ここは俺に任せてあんたは戻れよ。日向夏美が心配してるぜ」
「……礼を言う」
「元は俺が悪いっつったの、先輩じゃねーの」
ギロロは後輩の背中に何か感じたのか、わずかに苦笑した後、もう一度ネコを見上げた。
ネコは穏やかな顔で浮かんでいる。心の中で詫びてからラボを後にした。