■モーニングコール:2
「朝だぞ、早く起きろ」
「時間だぞ、夏美」
「起床!今すぐ訓練を開始する!……いやいや、訓練じゃないしな」
ほの暗いテントに呟きが満ちていた。
ネコが不思議そうにギロロを見つめている。
足にその顔を擦り寄せると、無意識なのかネコを見ないまま頭を撫でた。
「もう朝日が昇っているぞ」
「小鳥のさえずりが聞こえないか」
「新しい日の始まりだぞ……うぅむ、詩的すぎるか」
手元のメモには、色々なパターンの『夏美を起こすセリフ』が書き連ねられていた。
口に出して確認しながら、丸やバツを付けている。
ネコは聞いているのも飽きたのか、その場で丸くなった。
「思い切って、ロマンチックなのはどうだ?『おはよう、眠り姫』とか」
「い、いっそ『朝だぞ、愛しい夏美』なんてのは……!」
深夜特有の空気がギロロを包み、テンションを上げていく。
「『俺と、目覚めても終わらない夢を見ないか?』……よし、これにするか!」
ギロロは叫ぶと、メモにぐりぐりと丸を書いた。
ランタンの明かりの中、時計を見ると表示は3時を少し過ぎている。
「あと2時間だと!?」
今から眠ってしまっては確実に寝過ごす。
ギロロはそんなに悩んでいたのかと自分を呪いながら、
目を覚ますためにコーヒーを入れる準備を始めた。
そして一睡もしないまま、時刻は4時50分。
あまり早過ぎても良くないが、ギリギリでもまずい。
そうギロロが考えた、ジャストの時刻が今だった。
思えば、夏美に電話をかけるなど、初めてのこと。
妙に緊張して震えてしまう手を押さえながら、リダイヤルボタンを押した。
5回コールした後、回線の繋がる音がして、ギロロは唾を飲み込んだ。
「なっ、なつっな、夏美!お、俺と……」
「んー……あ、もうこんな時間!ありがとギロロ!」
そこで、ぶつり、という無機質な音と共に回線が切れた。
ギロロは呆然として『ツー、ツー』としか言わない電話を耳に当て続けていた。