■Keron Mermaid -500voices-:7
ギロロは頭に血が上ったままで、基地の廊下を早足で歩いた。
指令室の扉を入ると、正面モニターにアスラー星人のアップが見えた。
「ちょ、ギロロ、ストップ!ストーップ!」
突然ケロロが飛び出してきて、ギロロに体当たりした。
二人は一緒になって床に転がる。
「全く、戻ってきて早々、何考えてるんでありますか!?」
それはこっちのセリフだ、と心で叫んだところで、ふと自分の手元を見た。
いつのまにか両手にバズーカとライフルが握られている。
ケロロは立ち上がり、仁王立ちでギロロをびしっと指差した。
「いいでありますか!?あれは映像なんだから!こんなとこで暴れないでよね!」
どうやら無意識に攻撃を仕掛けようとしていたらしい。
ギロロは尻餅をついたまま頭をかいた。
「で、ガルル中尉、そいつは吐いたんでありますか?声が戻るかどうか」
アスラー星人の頭が紫色の手に捕まれたかと思うと、モニターに押し付けられた。
「うぐっ!わ、わかったから放して!」
どアップの顔はさらにおぞましい。見せられるこっちの身にもなって欲しい、
とケロロが思うと、その願いが通じたのか、モニターから顔が離れた。
アスラー星人はため息と共に言う。
「戻す方法はあるわよ」
わずかに自由になる足先のひとつを動かすと、ケロロたちの目の前に超空間ゲートが現れた。
そこからテニスボール大の玉が勢いよく飛び出して来る。
魚の卵のようなそれは、ケロロたちの足元に散らばった。
「それが私のコレクション。私の好きなセリフを言わせることができるわ」
「これが……声?」
ケロロが周囲を見渡して言うと、向こうでタルルがつかみ掛かって言った。
「なんであっちに転送するっスか!?」
「だってこっちに出したらあんたたち、どれがその声なのか無理矢理聞くでしょ!」
足元に当たった玉のひとつをギロロが拾った。
「アスラーさま」
玉から突然男の声がして、思わず取り落としてしまった。
「ちょっと、大事に扱ってよね!」
ケロロも試しに拾ってみたが、どれも持ち上げると「アスラーさま」と再生された。
クルルも椅子から降りてくる。
「クックック、いい趣味してるぜ」
モニターのアスラー星人が笑った。
「余裕でいられるのも今のうちよ。その中からたった一つ、本人の声を探して
その玉を飲み込ませるの。合ってれば声が戻るわ。」
「間違ったらどうなるんでありますか?」
「玉が喉に詰まって死ぬわね」
「なんですとー!?」
それを聞いて、ガルルがアスラー星人の足を掴んで締め上げた。
「うぐうっ!」
「そんなことになったらアンタの命が無いっスよ」
「バカね、そうしたら一生声は戻らないわよ。
私に何かあればそこの玉は全て割れるようになっているわ」
「……めんどくさいヤツっス」
「だから、逃がしてくれれば、とりあえずあんたたち二人の声だけは
返してあげてもいいって、さっきから言ってるじゃない」
「なんだ、それでいーじゃん!!」
ケロロが瞳をきらりと光らせた。
タルルは視線でガルルに問いかけたが、ガルルは首を横に振る。
「ケロロ隊長、指名手配中の犯人を逃がしたのが警察にバレたら、
軍としてはやっかいなんスよ。さっきガルル隊長と相談して、
逃がすのはナシになったっス」
「ゲロ……じゃあ意地でも自分たちで見つけなきゃいけないってこと?」
「そーいうこったな。玉に言わせる言葉を変えることはできねーのか?」
モニターに向かってクルルが言うと、ガルルが再度きつく締め上げた。
「ぎゃああぁぁ!変えます、変えさせて頂きますぅ」
「クーックックッ、何にする?」
ケロロもギロロも腕組みをして考えた。
「『ギロロ伍長だ!』ってのはどう?」
「共鳴でハモってみるかぁ?」
ギロロがふとモニターを見ると、ガルルが『兄ちゃん』と書かれた紙を持っていたが、
見なかったことにして背を向けた。
そして入口にふと目をやると、人影が見えた。
「セリフはもう決まってるわ」
全員の視線が集まる。
バジャマ姿の夏美が、入口に寄り掛かるようにして立っていた。
「夏美殿!?」
「そう、言わせるセリフは『夏美』よ。ギロロの声はあたしが絶対取り戻す」
夏美はモニターのアスラー星人を、強い眼差しで睨みつけた。