■Keron Mermaid -500voices-:6
ノックをして部屋に入る。
夏美は眠っていなかったようで、ギロロに気づくとわずかに体を起こした。
(寝ていろ!)
ギロロは慌てて駆け寄ると、両肩に手を添えて夏美の体をベッドに優しく倒した。
「大丈夫、熱はもうほとんど無いから」
それでも夏美の頬はいつもよりほてって見える。
ギロロは夏美の肩に手を置いて首を振った。
「ありがと……。なんだか眠れなくて。明け方に怖い夢を見たからかな」
やはりアスラー星人の夢が夏美にも影響したのだろうか。
「冷たい水の中で、息ができなくてすごく苦しかった」
自分が狙われたせいで、夏美にも被害が及んでしまった。
そう思うとギロロは唇を強く噛み締めた。
「大丈夫。実はね、すぐにギロロが来て、助けてくれたの」
(それは違う)
確かに助けようとはしたが、ギロロの夢では夏美を助ける前に、
ギロロとガルルが声を奪われたのだ。
「そういえば目が覚める前に、イカのおばけみたいのが
声を貰うとか言ってたような……。ギロロ?」
夏美は布団から手を出してギロロの頬に触れた。
「あんたさっきから喋ってないけど、まさか」
ギロロが夏美から目を逸らすと、とたんに夏美の顔が青ざめた。
「あれは夢じゃなかったの?まさか本当に、私を助けるために……?」
夏美の目が涙に潤む。
「ギロロ、もうあんたの声は聞けないの?いつもみたいに夏美って呼んでよ!」
「………」
「なんで!私なんかのために!」
大粒の涙が溢れだし、夏美は掛け布団を顔まで引き上げた。
ギロロが腫れ物でも触るように、そっと布団に手をかけると、夏美の声が弱々しく響いた。
「ひとりにして……」
慌てて手を引き、その手を強く握りしめた。
夏美を守るためにしたことが、夏美を傷つけた。
自分の為に泣いてくれているなどと、浮かれた気持ちは微塵もない。
あるのはただ、夏美の涙を止めたいという思いのみ。
(必ず声を取り戻し、もう一度お前の名を呼ぶぞ。夏美)
部屋を出るギロロの瞳が灰色に変わっていた。