■Keron Mermaid -500voices-:4
目が覚めて飛び起きると、そこは見慣れたテントだった。
やはり夢だったか、と呟こうとしたが、声にならない。
ギロロの背に汗が流れた。
(夢でないなら、夏美は!?)
テントから飛び出すと、すぐそこにいた誰かとぶつかった。
「いたたた〜」
尻餅をついて、腰をさすっていたのは冬樹だった。
ギロロはすまん、と口を動かして冬樹の手を取り、助け起こす。
「あ、伍長、姉ちゃんが体調悪いみたいなんだ」
(無事なのか!?)
ギロロは必死の形相で掴みかかった。
「な、なに?とりあえず今日は部屋で寝てるから、時々様子見てあげてよ。
僕、学校行ってくるから」
容態はそれほど悪くないようだ。
ギロロは冬樹を見送ると、足早に夏美の部屋へ向かった。
ノックをし、「俺だ」と言いかけて、声の出ない自分の喉をいまいましげに掴んだ。
恐る恐る扉を開ければ、ケロロが夏美の額にタオルを乗せている所だった。
「ギロロ伍長、目が覚めたでありますか」
無言で近づき、夏美の顔を見る。
目を閉じているその顔は、少し熱があるようで、頬がほんのり紅い。
ギロロの脳裡に、夢の中の冷たい頬をした夏美が浮かんだ。
(よかった……助かったのだな)
目を潤ませる涙をなんとか飲み込むと、ケロロを振り返った。
「おそらく疲れでありますよ。それより心配なのは、ギロロ、お前の喉であります」
ギロロは驚いてケロロの両肩を掴んだ。
(知っているのか、俺に何が起こったか!)
「あーハイハイ、暑苦しい顔近づけないでよ。
クルルに説明してもらうから、基地に行くであります」
大人しく手を離すと、ギロロは一度だけ夏美を振り返ってからケロロに付いて部屋を出た。
「えー、じゃあクルル、説明よろしく」
ケロロの一声でクルルの手がキーボードを叩いた。
「今日の明け方、ガルルから通信があった。その映像だ。隊長にもまだ見せてなかったな」
正面モニターいっぱいにガルルの上半身が映し出される。
しかしそれは、ぴくりとも動かず口を開こうともしない。
しびれを切らしてケロロが言った。
「……ちょっとクルル〜、これ静止画?」
「ちげーよ。黙って見てな〜」
その時、画面の右端から水色の影が覗いた。タルルだ。
タルルはカメラとガルルを交互に見ると、ため息をついた後、手元の書類を読み上げた。
「えー、親愛なるケロロ小隊諸君、最前線での任務、ご苦労様です。
今回ご連絡したのは、他でもない、我が愚弟ギロロのことです。
私は昨夜、奇怪な夢を見た後、声を失いました。
ギロロも同様の事態に陥っていると思われます。
我々が調べたところ、これはアスラー星人の仕業である可能性が高いことが解りました。」
「アスラー星人?」
ケロロは首をかしげた。
「知らなくても無理はねぇ。少数民族だからな。
奴らの特徴は、とんでもないモノのコレクターであること。
特殊な能力で欲しい物を奪う、強奪星人として有名だったが、
今はほとんどが逮捕済みで影の薄い存在だ」
「正直に申し上げて、大体の見当は付いておりますので、犯人を見つけしだい、再度ご連絡致します。
そちらとはタイムラグがあるため、同じ夢を見た私が目覚めようとも
ギロロは今、夢の中でしょう。目覚めたら、事態を教えてやって下さい。以上!」
ビデオの中のタルルが文面から顔を上げると、
ガルルはカメラ目線のまま腕組みをして、満足そうに頷いた。
「これ、ガルル中尉出てくる必要あったの?てか、メールでよくね?」
「知らねぇよ。とりあえず、というわけで連絡待ちだ。
その間、先輩にちょいと聞きたいことがある」
クルルは言いながらキーボードを叩いた。