■Keron Mermaid -500voices-:3
船から飛び出したギロロは、すぐに何かに捕われた。
「ぐっ!」
それは巨大な吸盤のついた足。
下を見れば沢山の足が船体に絡み付き、ガルルや夏美の体も捕らえられているようだった。
「くそっ、放せ!」
「あ〜、いいわね」
地鳴りのような声がして、船体の影から巨大な頭が現れる。
それは厚化粧の顔をした、下半身がイカの巨大な女だった。
大きな丸いイヤリングが耳元で光る。
「いい声してるわねぇ、あんた」
「何なんだお前は!」
「私?私は魔法使い。私の言うことを聞いてくれれば、あんたの望みを叶えてあげるわ」
「なんだと!?」
「あんたの望みはわかっているわ。この娘でしょ」
イカの足がぐったりとした夏美の体を持ち上げた。
ギロロは思わず叫ぶ。
「夏美ぃっ!」
「あたしならこの子を助けてやれるわよ」
「何が目的だ!?」
足が動いて、ギロロの体をイカ頭の巨大な顔の目の前まで引き寄せた。
「私が欲しいのは、あんたのこ・え」
「声?」
「そうよぉ。あんたのその渋い声、それと引き換えに、あの子を助けてあげる」
「よせギロロ、罠だっ」
ガルルが叫んだが、その体は拘束している足ごと岩場にたたき付けられた。
「ぐはぁっ」
「ガルル!」
「あぁ〜、あんたもいい声ねぇ。うめき声もス・テ・キ」
ガルルのほうを向いてイカが言う。そしてさも良いことを思い付いたように、
長い睫毛を瞬かせた。
「そうだ。あんたの声もくれれば、全員助けてあげるわよ。それが嫌なら……ここで死ぬのね」
拘束している足が急にギリギリと締まった。
二人の叫び声が暗い海に響く。
「わかった、私の声をくれてやる。だから弟は見逃してくれ!」
「にいちゃん!」
「嫌よ、私はぜーんぶ欲しいの。記念すべき500番目のコレクションに加えてあげるわ!」
体に巻き付いていた足が虹色に光って、ギロロは気を失った。