■Keron Mermaid -500voices-:2


だんだんと周囲に岩が増えてくる。
カラフルな魚や珊瑚もまばらになってきた頃、前方に巨大な影が現れた。

「あれだな」

ガルルは呟くと、泳ぐスピードを上げた。
大きな帆船のようだ。長いマストが海面に向かって墓標のように立っている。
船体は大きく二つに割れたようで、片方は少し離れて横倒しになっていた。

「これではさすがに生存者はいないだろう……。
 とりあえず確認だ。二手に別れるぞ。お前はあちらを見て来い」

言われるままに奥の船体へ体を向けた。
破れた胴体部分から体を入れると、真横になった細い通路の上下にドアが幾つかある。

横倒しになった船体は、下になった右側面がかなり潰れていた。

「こっちは見ても無駄だな」

ギロロは上を見上げると、頭上にあるドアを蹴破った。

少し残っていた空気が泡となって消える。
作りは客室のようだが、部屋は既に荒れてひどい有様だった。
人影はない。

すぐに出て奥の部屋に向かう。
同じ要領でドアを蹴破ると、大量の気泡が溢れ出た。

「まさか……まだ空気が残っていたのか?」

泳ぎ入ると、カーテンのように視界が遮られる。
白い布地を掻き分けようとして、それが着衣だということに気づいた。

「逃げ遅れたか……」

ドレスに包まれた体は既に力を失い、水に漂っていた。
しかしその顔を見て、驚きに言葉を失う。

「な、夏美っ!!」

高く二つに結われた赤髪。まだ幼さの残る頬のラインは、
いつもの血色を失っているものの、間違いなく夏美だった。

「目を開けろ!夏美!」

ギロロはその体を抱いて声を張り上げたが、夏美はぴくりとも動かない。
大きく開いたドレスの胸元に耳を当てると、あるはずの心音が聞こえなかった。

「くそっ」

先程までこの部屋に空気があったなら、まだ蘇生は可能かもしれない。

「これが夢であろうが何であろうが、夏美は絶対に俺が守る!」

ギロロが夏美を抱えて下方の出口を目指すと、何かがものすごい勢いで突き上げてきた。
それはギロロごと船体を突き破ると、二人を水中に放り出した。


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