■Keron Mermaid -500voices-:1
ひんやりとした感触に、ゆっくりと目を開ける。
気がつくと、ギロロは水の中に浮かんでいた。
「ここは……」
周囲を見渡すと、乳白色の砂地に、ピンクや黄色の珊瑚が並んでいる。
その間を縫うように、カラフルな魚たちが遊んでいた。
かなり深く、海底に近い場所のようだが、暗さは感じなかった。
波にもまれた太陽光が砕けて、砂地に木漏れ日のような模様を描く。
楽園のような景色を泳いで堪能してから、普通なら呼吸の心配があることに、今更ながら気づいた。
「どうした、ギロロ」
口元を押さえたギロロに声をかけたのは、なんと彼の兄だった。
しかもその兄は、見慣れた体ではなく、驚いたことに下半身を魚の尾びれのような物に覆われている。
「にいちゃ……ガルル!?なんだそれは!?」
「ああ、これか」
ガルルは何を勘違いしたのか、その手に握った三股の槍を掲げる。
「親父に貸してもらったのだ。人間が来たというのでな」
「はぁ?人間?」
「昨夜の嵐で船が沈んだ。生存者がいたら厄介だろう。我々の存在が人間に知れたら一大事だ」
「一体何を……」
「さぁ、お前も行くぞ。その尾ヒレは何のために付いているのだ」
「お、尾ヒレ!?うわぁぁっ」
そこでようやくギロロは、自分の下半身もピンク色の鱗に覆われていることに気が付いた。
(これは、夢か?)
妙にリアルな水の感触を感じながら、ギロロはガルルに引きずられて泳いでいった。