■Keron Mermaid -500voices-:11
物質転送装置によって、ギロロとガルルの声は速やかに交換された。
「ほらよ、センパイ」
クルルから玉を手渡され、ギロロはそれを見つめる。
すると玉が淡く光って声を発した。
『夏美……』
自分はこんな声をしていたかと、思わず手を止めると、それを見ていた夏美が言った。
「大丈夫、絶対にそれはギロロの声で間違いないわ。
そんなのじゃない、本物の声で呼んでよ」
ギロロは強く頷いて覚悟を決める。
テニスボールほどもあるボールをぐっと喉に押し込んだ。
一瞬の苦しさのあと、ギロロの喉が虹色の光を放つ。
焼けるように熱く感じて、倒れそうになったところを夏美が支えた。
「ギロロ!」
「……つみ」
夏美の目が潤む。ギロロは掠れる声を精一杯絞り出した。
「な…つみ!夏美!!」
「ギロロ!!」
ギロロの顔に雫が落ちて跳ねる。そのまま夏美はギロロを抱きしめた。
「のわぁっ!夏美ぃぃっ!」
「あーあ、我輩たち、邪魔者でありますな」
「クーックックック」
ケロロは背を向けたが、クルルはその手にしっかりビデオカメラを持って録画状態だ。
落ちた雫を端から蒸発させながら、真っ赤になったギロロはそれでも夏美の腕から
抜け出そうとはしなかった。
白目を剥きながらも、なんとか夏美の頬に手を当てる。
「こ、声が無くとも、戻っても、泣かせてしまったな」
「……バカ。もうこんなこと、二度とごめん……だ、から……」
「夏美!?」
気を失うように、夏美はふらりとギロロのほうへ倒れこんだ。
それを今度はギロロが支える。
抱えたその身体は、浅い呼吸を繰り返していた。