■Keron Mermaid -500voices-:10
『夏美…』
「これも違う」
『夏美…』
「違うなぁ」
『夏美…』
「あーもう!なんでみんな私を呼ぶのよ!頭おかしくなりそう」
「自分で言ったんじゃねーかよ」
「だって!」
夏美はいらいらしながらも、一つ一つの声へ慎重に耳を傾けた。
「しかし見事にオッサン声ばっかでありますな」
モニターの向こうでアスラー星人が鼻を鳴らした。
「私が全宇宙から集めた選りすぐりの渋声コレクションよ、馬鹿にしないで」
「……てことは、これ全部オッサン声!?」
「だんだんわかんなくなってきちゃった〜」
ぺたりと座り込んだ夏美の肩に、ギロロが手を置く。
「うん、焦らずがんばるね。ごめんギロロ」
それを見て、ケロロがクルルに顔を寄せる。
「ちょっと奥さん、今の見ました?何も言ってないのに言いたいこと分かったみたいよ」
「凄いわね〜、てゆーか以心伝心?」
「こら!そこサボんないの!」
こうして、少しずつだが作業は進み、すべての仕分けが終わろうとしていた。
「これが最後であります」
『夏美……』
「……違う、と思う」
「ゲロ〜、もう無いでありますよ。見つかったのはガルル中尉っぽい奴が一個だけ。
ギロロは?自分の声でしょ、わかんなかったの?」
腕組みをしてギロロはうつむいた。
「自分の声ってのは自分で聞こえるのと違うもんだ。先輩自身にゃわかんねーよ」
「じゃあクルルはどうよ」
「オッサンの声なんか普段気にしねぇからわかんね」
「うー、お手上げでありますな」
その様子を見て、モニターの向こうから笑い声が上がった。
「あんたたちになんか一生見つけられないわよ!」
騒ぐアスラー星人を、ガルルの手が上から押さえ付ける。
それを見て、クルルの顔色が代わった。
「500番目のコレクションだと……?じゃあ一個足りねぇじゃねーか!」
「どったの、クルル?」
「隊長、もう無駄なことはやめだ」
「どういうこと?」
「やっぱりハナっからこの中には無かったんだ。
500番目のコレクションがこの二人なら、総数は501個だろ。
ここには500ぴったりしかねぇよ」
「マジでぇ!?じゃ、じゃあギロロの声は!?」
しかしクルルはそれに答えられず、モニターに目を向けた。
「その中にあるって言ってるじゃない、悔しかったらどこにあるか言ってみなさいよ!」
「クルル、わからないの?」
夏美も詰め寄る。クルルは足元に視線を落とした。
ガルル小隊がこいつを拘束したのは、とんでもない速さだった。
どこかに隠せる暇があったとも思えない。
クルルはぱっと顔を上げた。
「……まさか。ガルル!」
呼び捨てにされたことを気にする風でもなく、ガルルは顔をクルルに向けた。
「耳だ」
クルルの言葉に、ガルルの目が金色に煌いた。
「や、やめ、それは!」
アスラー星人が何か言う前に、ガルルの手が両耳にかかり、
大振りの丸いイヤリングを引きはがした。
「痛っ!」
ガルルがそれを両手に持つと、片方が光を発した。
「夏美……」
「ギロロ!ギロロの声だわ!」
夏美が叫んだ。
「おいおい、こりゃどういうことだ?この中じゃなかったのか?」
クルルが笑う。
冷や汗をかいて俯くアスラー星人の足を、ガルルはまた全力で引いた。
「ぎゃああぁぁ!」
「ちょ、ガルル中尉!それはいいから、その玉早くこっちに送って欲しいであります!」
ケロロが慌ててモニターに叫んだ。