■The love story started suddenly:3
(なんなんだこのネクタイは……まるで、俺が俺でないようだ。
俺の知らない色々な知識 ―例えば料理や女性に対する振る舞いなど― が
自然に出てくるだけでなく、夏美に対して緊張せずに話せている)
夏美のほんのり上気した頬の色を思い出し、ギロロは今更ながら顔を真っ赤にしていた。
「ちょっと、ギロロ伍長!鼻の下伸ばしてないで、早く帰って来るであります!」
「なっ、わかっとるわ!」
「帰ったら掃除、洗濯、トイレ掃除でありますよ」
「俺が!?」
ゲロゲロリ、と笑い声がする。
「今日は夏美殿が当番の日。喜ばすのが作戦であります」
「貴様らは何もしてないじゃないか!」
「我輩たちがやっちゃってもいーの?一人でやったほうがきっと、夏美殿感動するでありますよ?
夏美殿の喜ぶ顔、見たくないの?」
声にならない声で叫んで、ギロロは急ハンドルを切った。
「とにかく帰還する!」
かつてない楽な作戦になりそうで、ケロロはまた邪悪な笑みを浮かべた。
(ギロロったら、今朝のあれ、どうしちゃったんだろ。)
夏美は、今朝のギャルソンエプロンのギロロや、スーツ姿のギロロを頭に思い浮かべていた。
(悪くはないけど……)
帰りのホームルームは終わりに差し掛かっていた。周囲のざわめきに、
ふと窓の外を見ると、校門の外に人影が見える。
「まさか!」
案の定、ギロロが立っていた。目が合うと、さっと片手だけ上げて塀の影に消えて行った。
「今のなに?こっち見てたけど」
「誰かの知り合いかな」
「変なマスクしてたよ」
「不審者?」
「せ、先生!わたし早退します!」
夏美は立ち上がって大声で言うなり、教室を走り出た。
「早退も何も、HRはもう終了しますが……。みなさんも、今日はこれで終わります!」
号令がかかり、クラスメイトが校庭に出てくるころには、夏美はもう車の中だった。
「やめてよ、みんな驚いていたじゃない」
「何がだ」
「あんたが校門にいたことよ」
「気に入らなかったなら謝る。すまなかった」
素直に謝られた夏美は、逆に言葉に詰まってしまった。
「以後気をつけよう。それより夏美、夕食までには時間がある。行きたい所はあるか?」
「え?でも私、当番だから帰らなきゃ」
「心配無い。家事なら終わらせてきた」
夏美はまた絶句する。
「何もアイディアが無いなら、好きな場所に連れていくぞ。いいな」
「ちょ、ちょっと待ってよ!わかったわ、これボケガエルのわけわかんない作戦なんでしょ!」
「……だったら?」
ギロロがニヤリと笑い、横目で夏美を見た。その眼差しに、なぜか心臓が跳ねる。
「だったらどうするんだ。このまま家に引き返して、ケロロを締め上げるか?」
「そ、そうするわよ。この隙に何か良からぬことをしているに違いないんだから」
「それはこのドライブより有意義なことなのか?」
ギアを握っていた手が、夏美の右手に重なった。手が動かせない自分を不思議に思いながら、
体温ばかりが上昇していく。
「どうせケロロのやることだ、たいした結果にはならん。
今日、楽しんでから帰って様子を見ても、遅くはあるまい」
「でも」
「地球最終防衛ラインにも、休日はあるべきだ。違うか?」
赤信号で停止し、ギロロが夏美を見つめた。夏美はその視線で金縛りに合ったように動けない。
信号が変わり、重なった手がギアに戻されるまで、二人は見つめ合っていた。
(なんなの私!こんなの絶対変!)
顔を真っ赤にして俯く夏美を、モニタリングしているのは小隊の面々である。
「ゲロォ……なんか、主旨違ってきてない?」
「ただのデートののぞきみたいですぅ」
「疑心暗鬼とはほど遠い状態でござるな」
「まぁ、見てろって。本番はここからだぜぇ」
クルルが手元のキーボードを叩いて、その右側に付いていたレバーを押し上げた。
「リミッター解除だぜぇ〜」
モニターに目を向けると、ギロロのタイが赤く光って見える。
「う、ぐ……」