■The love story started suddenly:2
「ゲーロゲロゲロ!うまくいってるようでありますな」
ギロロ以外の小隊員が、揃って基地のモニターを見ていた。なぜかそこには冬樹の姿もある。
「軍曹、伍長はどうしちゃったの?」
「これのおかげだぜぇ」
クルルがキーを叩くと、映像がギロロの蝶ネクタイにズームした。それにタイトルコールのような叫びが続く。
「誰不問美男新一(ダレデモイケメンバーロー)ネクタイ〜」
「イケ…メン?」
「こいつを付けた奴は、どんな朴念仁でも、女の扱いに手慣れた感じになれるっつー超便利なシロモノだぜぇ」
「へーぇ、すごいね、こんな作戦なら姉ちゃんも喜ぶかも。
あ、僕もう行かなきゃ」
「了解であります。タママ二等、お送りして」
「いえっさーですぅ」
制服姿の冬樹を基地から送り出す。タママが超空間ゲートで西澤邸へ送り、
そこから桃華と登校してもらう手筈だ。
「すごい徹底ぶりでござるな」
「当然であります!この『夏美殿をもてなして疑心暗鬼に陥らせて衰弱させよう大作戦』に、失敗の可能性は無しでありますよ!」
「さすがおじさま!ていうか、当選確実?」
「し・か・も、夏美殿に対する作戦ではいっつも邪魔ばかりの赤ダルマは実行犯!
邪魔する隙もないであります」
ゲーロゲロゲロ、と笑い声が基地に響く。
「夏美殿をもてなすのが作戦であれば、拙者も依存は「朝食、無事に済んだようだぜぇ」
「よし、では次の行動に移るであります!」
「ひどいよぉ〜」
香ばしく入れられたコーヒーを味わいながら、夏美が言った。
「ねぇ、そういえば冬樹は?」
「先に行かせた」
「えー、なんで」
「お前にゆっくりとした朝をプレゼントしたくてな」
「……え?」
差し向かいで自分もコーヒーを飲みながら、ギロロが微笑んだ。
「朝食の準備をし、冬樹を起こし……お前の朝はいつもせわしない。今朝はゆっくりできたか」
「あ、うん」
いつものように慌てずに、自分の目を見て静かに話すギロロ。
(やだ、あたしったら何赤くなってるのかしら)
頬に手を当てると、ふと時計を見て、慌てて立ち上がった。
「いけない、もうこんな時間じゃない」
「では、学校まで送ろう」
「はぁ?」
外へ出ると、玄関前に真っ黒なスポーツカーが停まっていた。
いつの間にか地球人スーツを着たギロロが、ドアをうやうやしく開ける。
「さぁ、どうぞ」
いたずらっぽく笑うギロロに、また赤面しながら夏美は助手席に乗った。
運転席に座るギロロを横目で見れば、どうやら着込んだスーツもいつもの野暮ったいものではないようだ。
スマートなシルエットに上品な光沢が美しい。
「ねぇ、今日はほんとどうしちゃったの?」
「なにか気に入らないことがあったか?」
「そうじゃないけど」
ギロロはスムーズなギアチェンジとステアリングさばきでなめらかに運転している。
「いまどき手動のギアチェンジとは、ペコポンの車、嫌いじゃないぞ」
ギロロは車が気に入ったのか、夏美の様子は気にしないまま学校まで送り届けた。
「帰りは何時頃だ」
「今日は何もないし、私が当番だから、たぶんまっすぐ帰るけど」
「了解した」
降りた夏美に、窓を開けてさらに声をかけた。
「何か食べたいものはあるか?」
「え?」
「帰りまでに考えておけ」
聞き返す間もなく、車は発進してしまった。その後ろ姿を見送って立ち尽くす夏美の肩が叩かれる。
「おはよ!」
「さつき!」
「なになに、今の誰よ?顔見えなかったけど彼氏?」
「か、か、彼氏!?違うわよ!」
「赤くなっちゃって。後で詳しく聞いちゃうからね〜」
「え〜、何でもないよぉ」
その日は一日、夏美の彼氏?の話題で持ち切りだった。