■Last 2 weeks:3


いつの間にか物思いに耽っていたようだ。
ギロロ伍長を横目で見ると、眉間にシワを寄せて顔で黙り込んでいる。

「あっ、あの、すみませんでした。考えごとをしてしまって」
「かまわん」

伍長はそう言ったが、しかめっつらは直らない。

大失態だ。
せっかく伍長との時間が持てたというのに。

私が俯いていると、膝に置いていた手を伍長がふいに握った。
突然のことに、心臓が飛び上がる。



伍長は苦々しい顔のまま言った。

「他の男に買わせるくらいなら、俺に言え」
「えっ……」
「安月給だが、欲しい物くらい俺が買ってやると言ったんだ」

怒ったような口調に、なぜか自然と笑みが漏れた。

「軍曹にはプレゼントすると言って頂いたのですが、きちんとお断りしました」
「そ、そうか」

それを聞くと、伍長は照れたように笑い、小さな声で呟いた。

「似合ってるぞ、。……その、綺麗だ」

ジープのエンジン音に掻き消されてしまいそうな小さな声だったが、
私の耳にしっかり届くと心に沁みていった。
伍長の手がギアに戻ってしまったのを残念に思いながらも、心はほっこりと暖かい。

日はもうすっかり暮れている。
車は明かりの灯る市街地を抜け、海の方へと進んでいるようだった。



車は一軒のレストランの前で停まった。周囲に建物は他に無く、白い外壁はライ
トアップされ、窓からは温かな光が漏れている。
小洒落た雰囲気に、泥だらけのジープは完全に浮いていた。
伍長も同じことを感じたようだ。

「こんな車で来てしまって、場違いだったな」
「いえ、私たちらしくていいと思います」
「そうだな、確かに俺達らしい」

伍長は笑いながら入口へと歩く。
俺達という言葉一つで、こんなに浮かれた気分になる自分がおかしかった。

建物の周囲には街灯さえほとんど無い。波の音が暗闇に響いていた。



料理は魚貝を使った物が中心で、新鮮な素材の旨味を活かした感じの落ち着いた味だった。

私たちはたっぷり時間をかけてコース料理を楽しんだ。
最後にデザートの皿が下げられると、私は深い息を吐いた。

「おいしかった。食べ過ぎてしまいました」
「ああ、うまかった」

伍長は白ぶどうのジュースが入ったグラスを満足そうに傾ける。

「実はこの店も、ケロロの入れ知恵なんだ」

私は笑って言った。

「それは内緒じゃなかったんですか?」
「なんだ知っていたのか」
「軍曹が。伍長に色々アドバイスしたけど、うまく事を運べるか分からないから、
 知らないふりでサポートして、と」
「なんだあいつは!誘った相手にサポートさせてどうするんだ」

まったくおかしな話だが、なんとなく軍曹の気持ちはわかるような気がした。
伍長と私に、今日というこの日を楽しませたかったのだろう。
それがわかったのか、伍長は穏やかに微笑んだ。

「そういう変なところも、あいつらしいな」
「良いご友人をお持ちですね」
「既にお前の友人でもある」

それは私にとって、とても楽しいことだ。

「光栄です」
「ありがたがる程のものじゃない」

伍長はそれでも嬉しそうに笑っていた。



温かい雰囲気の会話が続き、私はすっかり満たされた気分になっていた。

「そろそろ、行くか」

この時間が終わってしまうのが惜しかったが、伍長を困らせたくない思いで腰を上げた。

これで、伍長が行ってしまっても楽しく思い出せる。
良い思い出ができた。そう思っていた。


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