■Last 2 weeks:4
会計を済ませた我々は(やはりギロロ伍長は払わせてくれなかった)、
ジープに再び乗り込んだ。
「この先に海岸へ降りられる場所がある。少し歩かないか」
「はい」
私が頷くと、伍長は車を発進させた。
私たちの車以外、対向車も見られない。
まるで世界に二人きりのような錯覚を覚える。
車はやがて、海沿いの駐車場に停まった。他に車は無いが、夏場は多数の車で賑わうのだろう。
脇に立っている壁は、スプレーの落書きで埋まっていた。
コンクリートの階段を降りて砂を踏む。
演習以外で海に来るのは久しぶりだった。
「風が気持ちいいですね」
「ああ」
先を歩く私が砂に足を取られてよろけると、すぐに支えてくれた。
「大丈夫か」
「すみません」
「こんな暗闇で転んで怪我でもしたら、俺の責任だからな」
伍長は私から手を離すと、逆の方を向きながら、私に肘を突き出してきた。
「ありがとうございます」
私は伍長のひじを取り、並んで歩きはじめた。
風は強くないが、波音は絶え間無く響いている。
「」
「はい」
「こんなことになって、すまないと思っている」
「なんのことですか」
伍長は私の目を見ないまま、話を続けた。
「俺は2週間後には遠くへ行ってしまう。そんな奴とこんな……親しくなったら、
後はつらいだけだろう」
「いえ、いい思い出をもらったと思っています」
「……そうか」
もっと思い出が欲しくて、私は伍長の腕に体を添わせた。伍長が緊張するのがわかる。
「お前が好意を持ってくれているのは、本当に嬉しい。しかし、俺にはわからない。」
私と伍長の目が合って、私たちは立ち止まった。
「お前といると安らぐ。その目を見ていると、不思議な気持ちになる。これが、お前を、
す、好きだということなのか?」
「ギロロ伍長……」
「お前と一緒にいたい。もっとお前を知りたい。
しかしお前に悪いと思って、抑えようと思っていたんだ。なのに、昨日俺は……」
なぜか胸が苦しい。私は昨日のことを思い出して、顔を赤くした。
「私には、その言葉で充分です。一緒にいたい、もっと知りたい。
そう思うもの同士が一緒にいることを、どう呼ぶかなんて意味が無いと思います。」
私は俯き、伍長の腕をぎゅっと握って言った。
「私は嬉しかったですよ、昨日のこと……。」
「」
伍長は私の名を呼ぶなり、引き寄せて強く抱きしめた。
「お前にもっと触れたい」
私は幸せに詰まる胸を、なんとか落ちつかせるのに必死だった。
伍長は頬を寄せ、耳元で囁いた。
「あとたった2週間だが、俺と一緒に居てくれないか」
「私……でいいんですか」
「と居たいんだ」
「ギロロ伍長……」
伍長は私の肩を震える手で掴むと、一旦顔を離して私を見つめた。
「本当にいいか」
「はい」
決意を持って頷くと、唇が強く重ねられた。
私は目を閉じ、痺れるようなその感触に酔う。
やがて、離れてはまた重ねることを繰り返し、熱を持った唇はだらしなく開いて、伍長の舌を迎えた。
互いに呼吸がうまくできず、伍長はキスの合間の吐息と共に私の名を呼ぶ。
「……」
「ギロロ…伍、長……」
呼ばれるたびに、体の中心が温かく潤むような感じがした。
寄せては反す波の音は、伍長の呼び声と混じって私の欲望をくすぐる。
私は幸せにとろけていく頭の中で、もう後戻りはできない、と呟いていた。
■Last 2 weeks:END