■Last 2 weeks:2


伍長から連絡があったのは、ちょうど日が落ちた頃だった。

「宿舎まで迎えに行く。門の前で待っていてくれ」

私は門に寄り掛かる形で立っていたが、慣れないことをしているのと緊張感で
早くも倒れそうだった。

門に着くまでは気付かなかったが、何やら通りかかる人たちがみなこちらを見て
驚いたような顔をするのだ。

(やっぱり変なんだ)

居心地の悪さに下を向く。

?だよね」

ふいに声をかけられ、俯いていた顔を上げると同室の仲間が立っていた。

「あぁ、ファルル」
「やっぱだ、あんたどうしたの?」
「これは、あれだ、その」
「すっごくかわいいじゃん」

私は口を半開きにしたまま固まった。

「化粧してる?そのピンクの帽子もどこで買ったの?」
「あ、いや、知り合いが」
「あんたそんな赤くならなくても」

少し年上のファルルは明るく笑った。

「ナチュラルな感じですごく良いよ、軍人にはとても見えない。
 あんたも女の子だったんだね。あ、そっか、今日デートでしょ」

言葉がつげずにいる私に、にっこりと微笑む。

「楽しんでおいで。遅くなってもごまかしといてあげるから」

ウィンクをして去っていく後ろ姿を見つめていると、車のクラクションが控え目に鳴った。

!」

声の方に目を向けると、軍用のジープに乗ったまま、ギロロ伍長が手を挙げていた。

「待たせたか?」

私は首を振り、助手席へと回り込む。

「失礼します」

間近で見ると、伍長の顔がほんのり赤いことがわかった。
ちらりと横を見た伍長と目が合い、互いに赤面する。伍長はゆっくりと車をスタートさせた。

「帽子を変えたのか」
「あ、はい。軍曹が」
「あいつに貰ったのか!」
「いえ、選んで頂いただけで……」

それは軍曹のデート計画のひとつだった。



遡ること数時間―――

私が連れて行かれたのは、街外れの化粧品店だった。

「ほんとに我輩プレゼントしたいんでありますが」
「ぐだぐだ言わない!好きな男以外からなんて、何貰ったって借りにしかなんないのよ」

いじけたケロロ軍曹を、その友人がたしなめた。
軍曹と同年代くらいに見える『彼』は、いかつい顔を女性らしいメイクで覆っていた。
私も軍曹に声をかける。

「感謝しています、軍曹。でも選んで頂いただけで充分嬉しいんです」
ちゃんはいいコね〜。ケロロが肩入れしたくなる気持ちもわかるわ」

その無骨な手は、の顔に繊細な動きで筆を走らせていた。

「はい、終了よっ」

私は持たされた手鏡を覗き込んだ。
赤い肌に、薄いピンクの帽子が映えて見える。
そこには普段より柔らかい印象の自分がとまどった表情をしていた。

「あれ、もっとバッチリメイクにしないの?」
「バカね。ギロちゃんがそんなの好きなわけないじゃない。素材がいいからこれでいいのよ」
「そうでありますな。かわいいよ、殿」
「あ、ありがとうございます」

私は手鏡を返した。

伍長はどう思うだろうか。

ケロロの友人は、手鏡を受け取ると同時にの肩へ手を置いた。

「あのギロちゃんが選んだっていうから、どんなコかと思ったけど。いいコで安心したわ」

でも、と目を伏せて続ける。

「あと2週間……全力で楽しみなさいね」

私はしっかりと頷いた。
伍長と一緒にいられるのは、異動までの約2週間。
遠征から帰ってくればまた会えるだろうが、それはもう無いだろう、という予感があった。

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