■Last 2 weeks:1
暖かい日差しを瞼に感じ、ゆっくりと目を開けた。
壁の時計は午前11時を指している。
周囲の5つのベッドは既に空だった。
「寝すぎたな……」
ぼやけた頭のまま、後頭部を掻きながら洗面台に向かう。
昨夜、夜更かししたせいだろう。こんなに遅く起きたのは久々だった。
日課のランニングもさぼってしまったが、伍長は来ていただろうか。
伍長……
思い出すだけで、胸の奥が熱くなる。私は鏡を覗き込み、自分の唇にそっと触れた。
「……夢じゃ、ない」
感触を思い出すと、瞳が潤んでくる。ほうっと息を吐いた。
その時、図ったように入口付近の内線電話が鳴った。
「おっはー!殿」
「軍曹!?」
寝ぼけた脳にハイトーンが突き刺さる。
「お目覚めでありますかな」
「はい、あの、昨夜はすみませんでした」
「昨日のことはいーのいーの!それよりどうだったでありますか?」
顔がほてってくるのがわかる。
「はい……軍曹のおかげです」
「ヤフー!ギロロの奴、ちゃんと誘えたんでありますな!
いや〜心配しちゃってさ〜。なにせ仕事一筋の軍人バカでありますからな」
「そんなことありませんよ」
昨夜のキスは、無骨な伍長とは正反対の、柔らかさとなまめかしさを持っていた。
再度思い出してしまって、私は首を振って頭からそれを追い出した。
「とにかく、デートが決まって何より何より。ところで、そのデートは何時からでありますか?」
「夕方から、と聞いています」
「随分とアバウトでありますな〜。ま、ギロロも忙しいだろうしね。殿、準備は?」
準備、と言われ、何のことかわからなかった。
「すみません、準備とは?」
「女の子はイロイロあるでしょ。お風呂入ったりー、お化粧したりー」
「は、はぁ」
そういうものだろうか。
もちろんシャワーくらいは眠気覚ましに浴びるつもりだったが、
私は普段から化粧はしないし、どんなことをすべきなのかわからなかった。
でも、伍長には、それで良いと思った。
「化粧は普段からしませんし、特別にめかし込むつもりもありません。
伍長はきっと、着飾ることはあまり好まないと思います」
電話の向こうで軍曹の唸り声がした。
「それは間違いないであります。さっすが殿、あの偏屈に
惚れるだけのことはある……しかし!」
ゲロゲロと、いつもの笑い声が響いた。
「誰だって、異性のギャップには弱いもの!
我輩が最っ高のデートをプロデュースするであります!」
どうやら、用件の本題はそれだったようだ。
私は軍曹の口から流れるように語られるプランを、苦笑しながら聞いていた。