■First contact:2


現在ギロロが所属する第二中隊、のいるこの隊は、近々大規模な侵略作戦
を控えていた。ギロロはその期間限定で、派遣されている形らしい。
そしてこの作戦が終わった暁には、なんとあのペコポン侵略に向かうという噂まであるようだ。

噂話に疎いは、シャワールームなどでギロロの話を仕入れていた。今更積極的に参加できなくても、 耳は自然とそばだてられた。

「どうも、偉い隊長さんから、直々に小隊へ呼ばれているらしいよ」
「あ、それドロロ兵長もでしょ」
「誰それ」
「アサシンの実力トップって言われてる人だよ。あんた知らないの?」
「戦いぶり見たいな。ペコポン志願しよっかな」
「ばーか、長期任務になるんだよ、やめときなって」

やはり、自分のような一兵卒とは格が違うようだ。はギロロの名を聞くたびに、距離を感じていた。
あの日以来、食堂で会うこともない。また、会って話がしたい。そう思える存在など、 今まで居たことがなかったのに。は不思議なこの思いの答えを出す為にも、ギロロの存在を探していた。



そして機会は案外早く訪れる。

その日は眠れず、メディカルルームに睡眠薬を貰いに行ったのだった。

「失礼します」

自動扉が開いたところで軽く敬礼し、入室しようとした瞬間、いつもの医者ではない、赤い塊が見えた。
床に置かれた大きな薬箱に、頭を突っ込むように漁っている。尻が天井へまっすぐ突き出されていた。

「先生か、どこへ行っていた?鎮痛剤を……」

言いながら顔を上げ、振り返ったところで、過ちに気づいたらしい。

「すまん、医者かと」
「いえ。」

薬を貰うには、ここの医師の許可が必要である。

「先生はどこへ?」
「知らん。こんな夜中に何をやっとるのか」

ギロロは薬箱の蓋を閉め、その上に腰掛けるとに目を向けた。

「そういえば、食堂で会ったな。上等兵だったか」
「覚えて頂いていたのですか」

ギロロは患者用の椅子を蹴って寄越した。座れ、ということらしい。好意に甘えることにする。

「できそうな奴は嫌でも覚える」
「誉め過ぎです」
「世辞は言わん」

何も言葉を返せずにいると、腕組みをし、ギロロが言った。

「演習の様子なども見ていたが、周りを引っ張るような、良い動きだったぞ。」
「ありがとうございます」

元々感情があまり顔に出ないタイプだが、嬉しさに顔が紅潮するのがわかった。

「お前は何の用でここへ?」
「あぁ、睡眠薬を頂こうかと」
「そうだったか」

ギロロは言って、おもむろに医師のデスクの一番下の引き出しから瓶を取り出した。

「持っていけ」
「……酒じゃないですか」
「下戸か?」
「いえ、でもそれ、先生の物では」
「こっそり隠しているんだ、無くなっても文句は言えまい。」

しかも、この時間に居ないということは、街の酒場に行ってしまった可能性も高い。 作戦中でない場合、ここのドクターはいいかげんなのだ。

「じゃあ、ここで一杯だけ頂いて帰ります」

は立ち上がると、奥のシンクに見えたコップを二つ、手に取った。

「付き合ってくれませんか」
「俺には必要ない」
「鎮痛剤にもなりますよ。どこのお怪我ですか」
「たいした怪我じゃない」
「私だけ、悪者になさるおつもりですか」
「……違う、俺は下戸なんだ」

返答を聞き、自分の釣り目が真ん丸になった。人に寝酒を薦めて、自分は下戸?
言った本人は、苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。

「飲酒習慣の無い方が、よく寝酒を薦めますね」
「よく周りがやっとるのを見ているだけだ。ここにこれがあるのも知っていたしな。 しかし、確かに人様のものを黙って頂くのは良くないことだ。薦めてすまなかった」

頭を下げられ、慌ててしまう。

「やめて下さい!」
「いや、非がある場合は頭を下げる。当たり前のことだ」
「伍長……」

そのとき、入口の自動ドアが開いた。

「じゃあ私に謝ってくれたまえ」
「先生!」

二人揃って声を上げてしまう。

「赤いのが二人揃ってなにかと思えば。人の酒で酒盛りの算段かね」
「すみません」

ギロロが頭をかく。

「まぁ、私が飲み屋に行っていたことを黙ってくれてれば、それでいいよ」
「もちろん、秘密をお約束します」

ビシっと敬礼を決めたギロロをみて、は笑みを零した。

結局、睡眠薬も鎮痛剤も切れていて、入荷は今日の朝らしい。二人は笑いながらメディカルルームを出た。

「とんだ無駄足だ」
「まったく」
、眠れそうか」
「いや、もういい時間ですし、このまま起きてますよ」

時計は4時を刺していた。6時起床で、今更寝る気にもならない。

「俺も眠れそうにない。一杯付き合わないか」
「え?」

ギロロが向かっていたのは食堂前の休憩コーナー。ソフトドリンクのサーバーが置いてある場所だった。

「酒じゃなくて悪いが」
「いえ」

ギロロはコーヒーを入れ、二人分を机に置いてくれた。

「頂きます」

いつもの薄くまずいコーヒーが、今は胃に優しく感じた。

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