■First contact:3
ギロロはの正面に座ると、目を見据えて言った。
「失礼に当たるなら先に謝っておくが、その目は義眼か」
は右側が青、左が茶がかった黒という、極端なオッドアイだった。
「はい。作戦中、傷つきまして。治っても視力は回復の可能性が低いと言われ、
バイオ義眼にしてもらいました」
「まだバイオ義眼は研究中だと聞いていたが、実践配備されていたとは」
自分の目を新型兵器のように言われ、は苦笑する。確かに新型兵器に変わりないのだ。
「まだ研究中なので、言うなれば実験台ですよ。毎月データを取られています」
「なるほどな。どうなんだ、出来は」
「視力は格段に良くなり、夜目もききます。何より素早い動きを追うことに特化した感じですね。
逆に、強い光には弱いです」
「ほう」
「あと、時々とても目が疲れますね。光が入るだけで頭痛がする日には、眼帯をしたりします」
「なかなかデリケートだな」
「それがこれからの課題でしょう。臓器の培養移植は今までもありましたが、
眼球自体の移植は難しいと言われていたそうです。しかも上は、それに軍用オプションまで付けろと言う。
研究所の奴らはぼやいてましたよ」
は言いながら、自らの饒舌ぶりに驚いていた。右目の負傷は、自分にとっては
ある意味恥ずべき過去だ。実験台になっていることも、今まであまり他人に喋ったことは
無かったのに。
それに気付くと、とたんに言葉が出てこなくなった。するとギロロはの両目を見て言う。
「瞳の色が少し違うのは、お前の魅力の一つだな」
「は?」
「その目を見ていると、吸い込まれるように感じる」
その言葉に、ははっきりと赤面した。ギロロも自分の言葉の危うさに気づいたのか、慌てて両手を胸の前に上げた。
「まてまて、変な気持ちは無いんだ。感じたまま言ってしまった、すまん。」
慌てた様子でまくし立て、はは、と渇いた笑い声を上げる。
「私こそ、すみません。そういうことを言われたことが無かったので」
「そうやって口説かれたりすることはないのか」
俺は口説いたんじゃないぞ、と付け加えながら言う。
は苦笑した。
「口説かれることなど。女性兵士はまだ珍しがられますが、大抵は誘われても、
先日助けて頂いたような有様です」
「そんなものか」
「ギロロ伍長くらい、スマートに口説いて欲しいものです」
「だから俺は!」
が声を上げて笑うと、ギロロも吹き出した。
声を上げて笑うなど、何年ぶりだろうか。
「笑顔もかわいいぞ」
「もう、やめて下さい」
「すまんすまん、調子に乗りすぎたな」
言いながらギロロが壁の時計に目を向けた。
「女性を引き止める時間ではなかったな、戻ろう」
「はい」
名残惜しかったが、そろそろ朝の早い者は起きてくる時間だ。変な所を見られて誤解されても気分が悪い。
は素直に立ち上がった。
既に朝日が差し込む廊下を並んで歩き、男子寮との分岐点で足を止め、頭を下げる。
「ありがとうございました」
「付き合わせてすまなかったな」
「いえ、こんなに楽しかったのは久しぶりでした」
「俺もだ。ではまたな」
手を挙げて去っていく背中をしばらく見送り、踵を返した。
とても温かな気分だった。こんな気持ちは生まれて初めてだ。ギロロが去っても、頬の上気が治まらない。
(だめだ、少し走って頭を冷やそう)
寝不足の目に朝日がしみて、眼帯を取り出し右目を覆う。
この後、はランニングコースでまたギロロに遭遇するのだが、本人はまだそれを知らない。
■First contact:END