■Rookie loves cookies:2
西澤邸に戻ると、自分の部屋に用意されていたお菓子の山へ直行した。
「訓練の後には甘い物が一番ですぅ」
チョコ系のお菓子を中心にぱくぱくとつまむ。しかしチョコチップクッキーを手にした瞬間、
さっきのやりとりを思い出してしまった。
『ナッチーの手作りクッキーが食べたいですぅ』
『……わかった』
ギロロ先輩の姿を思い出したら、負けっぱなしだったことへの悔しさまで蘇ってきた。
手にしていたクッキーを思わず握り潰す。
「くっそー、次の訓練では負けないですぅ!そうだ、そのためにも今からトレーニングして……」
言いながら立ち上がったところで、携帯が鳴った。
せっかくの気分に水を差されて、舌打ちしてしまう。
おまけに画面に表示されていたのは、『タルル』の文字だった。
「もしもし」
「師匠!お久しぶりっス」
「何か用かよ」
「忙しいトコすんません!作戦の帰りに偶然ペコポンの電波圏内通り掛かったんで、
師匠元気かなーって思ってかけてみたっス」
「あっそ。忙しいからまた今度な」
「さっすが師匠、ケロロ軍曹から任された任務でお忙しいっスよね!すみません、じゃ」
電話を切ろうとボタンに指をかけたところで、再度タルルの声がした。
「ししょー!」
「なんだよ、まだ何かあるのかよ」
「いや、ちなみにギロロ伍長はお元気っスか」
後輩からあまり聞かない名前が出て面食らった。
「はぁ?ギロロ先輩?殺しても死なないくらい元気だけど」
「やっぱ師匠もギロロ伍長と実戦形式でトレーニングしたりするんスよね!?羨ましいなぁ〜!」
「……なんだよ突然」
先程の訓練を思い出し、苦い思いが蘇る。
「オレ最近、ガルル隊長に訓練してもらったりするんスけど、すげーためになるっていうか!
得る物たくさんあって感動してたら、隊長がこう言うんスよ」
ガルル中尉の鋭い金色の目が脳裏に浮かぶ。
「私はスナイプには多少の自信がある。しかし対人戦闘のテクニックでは、ギロロのほうが勝っているかもしれん。
上には上がいるのを忘れないことだ……って!」
(あのブラコン中尉……!)
「だから俺、いつかギロロ伍長にも訓練して欲しいんスよ!」
「……たいしたことねぇよ」
「師匠は同じ小隊で、いつも手合わせしてるからそう思うかもしれないっスけど……
あ、もしかして師匠、あの『戦場の赤い悪魔』と言われた伍長を、もう越えちゃったんスか!?」
「……ギロロ先輩が赤い悪魔なら、おれなんか、く、黒い嫉妬玉だぜ」
「すげー!さっすが師匠!あ、電波切れそうなんで、また!」
ツーツーと鳴る携帯を、頭から力無く離した。
(とっさにわけわかんないこと言っちまったですぅ。なんだよ『黒い嫉妬玉』って)
携帯を閉じて、お菓子の山の中へ放り投げた。
(あんな赤ダルマのこと尊敬しちゃって、我が後輩ながら恥ずかしいヤツ)
むかむかする気持ちそのままに、新たに掴んだクッキーにかじりついたところで、いいアイディアが閃いた。
「そーだ!」
自分の考えの素晴らしさにほくそ笑むと、たった今放り投げた携帯をお菓子の山から掘り出して、また超空間ゲートに飛び込んだ。