■Ringing the bell:7
夏美は写真を持ってテントを出た。
「夏美!?」
呼ばれて顔を上げる。
ずっと走ってきたのか、ギロロが肩で呼吸しながら庭に降り立ったところだった。
ギロロは夏美の手の中にあるものを見て真っ青になった。
(お、終わりだ……)
夏美が持っていたのは、ギロロのバックルにずっと入っていた夏美の写真だった。
修理の間、テントに無造作に置いたことが悔やまれる。
あげたわけでもないのに、自分の写真を持っているなんて、夏美は不審に思うだろう。
絶望に沈むギロロの前で、しかし夏美は意外にも笑っていた。
「あんたも、かわいいとこあるじゃない」
「はい?」
「これ」
夏美が写真をギロロに見せた。
ギロロは瞬時に顔を真っ赤にした。
「留学のこと、誰かに聞いたのね。私がいなくなると思って、この写真、用意したんでしょ?」
「あ、ああ……」
「冬樹にでも貰ったの?はじっこボロボロになってるし、よくこんな写真あったわね」
「その、すまん、勝手に」
「いいわよ、写真でも無いと忘れちゃう顔っていう意味でしょ」
「違う!」
むきになって否定したギロロを見て、夏美はいたずらっぽく笑った。
ギロロはからかわれたことに気づいて、さらに顔を真っ赤にした。
「まぁ、寂しがってくれたと思うと嬉しいよ、ギロロ。
私たち、パートナーみたいなものだもんね」
「パートナー?」
「うん。冬樹とボケガエル、小雪ちゃんとドロロみたいにさ」
「そ、それは、かなり特別な存在じゃないか?」
夏美は顎に指を当てて空を見上げた。
「うーん、そうね、言われてみればそうかも」
「夏美!」
下から声がして驚いた。いつのまにかギロロが駆け寄って来ていて、夏美を見上げていた。
その瞳はきらきらと光って見える。
「お前がそう言ってくれるなら、俺は決めたぞ!」
「え、え?なに?」
「俺はお前がどこでどんな選択をしようと、お前についていく!そして、お前を守る!」
「ギロロ……」
「お前がつらいときは話を聞いてやる、お前が危険なときには何を置いても駆けつける、
どんな時もお前を支えるパートナーになってやる!」
(それって……)
「ちょっとちょっとギロロ、プロポーズじゃないんだから。言いすぎでありますよ」
「け、ケロロ!?」
「ボケガエル!?」
そこに現れたのはケロロだけでなく、小隊のメンバーや冬樹、それに秋まで顔を出した。
「それはそれで結構なことなんじゃない?ケロちゃん」
「ママ!」
夏美とギロロは思わずお互いを見て、慌てて視線を逸らした。
その顔は両方とも赤く染まっている。
「でもごめんなさいね、ギロちゃん。その必要はなくなっちゃったのよ」
「な、な、なんだと?」
ギロロの瞳が小さくなるのを見て、秋はふんわりと笑った。