■Ringing the bell:8
「ハリケーンだと!?」
雲ひとつない青空の下、庭にギロロの声が響いた。
「うん。大した被害は無いらしいんだけど、それで向こうの飛行場がやられちゃって。
交換留学って話だし、向こうが来られないのが問題みたい。
なんかトラブル続きだし、今回は無かったことに、って」
「気象コントロールが出来てない、この星ならではの理由だな」
ギロロと夏美は二人きりで、テントの前のブロックに座って話をしていた。
夏美が、茶化してくる他の者を家の中に押し込んでしまったのだ。
「それじゃ、いつも通りなんだな、これからも」
「うん、よろしくね、ギロロ」
「あ、ああ……」
しかし、それでは自分の、あの覚悟は何だったのか。ギロロはそれを思って肩を落とした。
「でも、ギロロの言ってくれたこと、嬉しかったよ。
パートナーとして、私もギロロを支えられるようになるね」
「そうか、では手始めに侵略行為に同意してもらおうか」
「それは無理!ギロロったらずるいんだから」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
そこで夏美はふと思い立ったように手を合わせ、立ち上がった。
「そうだ、ちょっと待ってて」
夏美は家に入っていった。
急に静かになった庭に風が吹いて、風鈴の音が響く。
ギロロはそれを枝から外すと、表面をウエスで磨き始めた。
「あ、それ、やっぱ磨いてたんだ。どうりでキレイだと思った」
窓から出てきた夏美が笑顔で言った。
お前からもらった大切な物だから、などと言えるはずもない。
「と、透明だから、磨いておいたほうが美しいだろう。音色にも多少関係あるかもしれん」
「大切にしてくれてるんだね、ありがと」
夏美はにっこり笑って言うと、デジカメを片手にギロロの隣へ座った。
「で、何なんだ」
「写真、撮ろうよ」
「なんだ、突然」
すると夏美はポケットから先程の写真を取り出した。
「そ、それは!」
「もう私はどこにも行かないし、毎日顔合わせるなら必要ないだろうけど。
考えてみたら、二人で撮ったことないじゃない?たまには良いかなって。
あとでギロロにもプリントしてあげるから。撮らない?」
「お、お前がそこまで言うなら、と、撮ってやってもいい」
「もう、素直じゃないんだから」
夏美は笑いながらカメラを逆に持つと、真っ赤なギロロに頬を寄せた。
「たいちょー、本当にこれで良かったのかよ」
「我輩、何にも知らないでありますよ。戦略気象衛星『火磨割』の誤作動でしょ」
「報告書上はそうだなぁ」
「なんつーか、天敵がいないと張りがないしネ、ちょうどいいんじゃね?
それに夏美殿がいなくなったら、我輩の家事当番が増えるしぃ」
「俺様は別に構わねーけどよ」
「ま、なるようになったんでありますよ」
クルルはプラプラと歩いていく緑色の背中を見送った。
そして一人つぶやく。
「やっぱアンタは俺を超えるサイテーなヤツだぜぇ」
だからこの小隊にいるのはやめられない。クルルはそう思ってとびきり陰湿に笑った。
■Ringing the bell:END