■Ringing the bell:3
翌朝、ギロロは風に揺れる風鈴の音で目が覚めた。
日はすでに高く、頬を焼いている。
昨日のことを思い出して頭を降った。
「一体、何だったんだ」
真意を確かめたくて、日向家への窓を開く。
「夏美!いるか」
しかしそこにはソファーに横たわる冬樹と、机にプラモを広げるケロロしかいなかった。
「夏美殿なら、ママ殿と学校へ行ったでありますよ」
「学校?休みじゃないのか」
「先生の話を聞きに行ったんだ」
冬樹が言った。二人ともどこかつまらなそうな面持ちだった。
「先生?一体……」
「昨日、姉ちゃんから聞かなかった?」
「夏美殿は留学が決まったんでありますよ」
「りゅう、がく?」
「勉強をしに、海外へ行くことだよ。姉ちゃん英語得意だし、ずっと行きたがってたんだ」
夏美が「いなくなる」と言っていた意味がようやくギロロにもわかってきた。
「なぜわざわざ遠い場所で勉強するんだ」
「地球には色々な言語や文化があるから、その土地で学ぶことも意味があることなんだよ」
「我輩たちには翻訳機があるから無縁な話でありますよ。
全く、これだから未開の星は嫌であります」
なぜか腹を立てたようにケロロが言った。
その様子を見て、冬樹もため息をついた。
「どれくらい居ないんだ」
「9月から一年間って言ってた」
「一年!?」
思わず声が裏返った。
自分の一生から考えれば、ほんの一瞬に過ぎない期間。
だが。
「そんなに不在なら、余裕でペコポン侵略できちゃうであります」
拗ねたようなケロロの物言いに、ギロロも舌打ちしたいような気分だった。
「その留学とやらは、もう決まりなのか」
「今日、その返事をして、詳しい話を聞きに行ったんだよ」
「一年間、それも9月からとは、話が急すぎる」
「行く予定だった人が怪我しちゃったんだって。それで急に順番が回ってきたんだってさ」
いじけたように目を伏せる二人に、いいかげん頭に来てギロロは怒鳴った。
「貴様ら、男のくせにうじうじしおって!行かせたくないなら、行くな、と言えばいいだろう!」
「そりゃ、ギロロは行かせたくないでありましょうけど」
「なっ、俺はただお前らの態度を見て言っているだけだ!」
「だぁって、例えそうだとしても、侵略者としては反対できないであります。
地球防衛ライン・ナツミゲドンの長期不在なんて、絶好のチャンス。
ギロロ伍長、そこんとこ解ってて言ってるんでありますか」
「ぐっ……。冬樹、お前はどうなんだ?姉の不在で寂しいんじゃないのか?」
「姉ちゃんの夢だもん。僕のわがままで、やめて、なんて言えないよ」
二人からの言葉に反論の余地もなく、ギロロはその場に座り込んだ。
「リュウガクとは、そんなに大切なものなのか」
「少なくとも、姉ちゃんなら色々吸収して帰ってくるだろうね。
あーあ、寂しくなるなぁ。軍曹たちがいてくれてよかったけど」
冬樹は雑誌を手放し、仰向けに寝転がった。
「冬樹殿!我輩が侵略しまくって、寂しがる暇なんか与えないであります!」
「あはは、それは嫌だなぁ」
「話にならんな」
ギロロは腕を組むと、カラ元気の二人を置いて部屋を出た。