■Beauty & Invador:5


幅が狭く暗い石段は、螺旋状に上へ上へと続いていた。
タママと呼ばれていた黒いカエルは、ろうそくの灯った燭台を片手に先を行く。 夏美はそれに続いて黙々と階段を登っていた。
お城の中でも、かなり高い塔の最上階を目指しているようだった。

「もうちょっとで着くですよぉ」

かわいらしい、まだ子供のような声でタママが言った。夏美は少し笑顔を見せることができた。

「どこへ向かってるの?」

「どこって、ナッチーがこれから過ごす部屋ですぅ」

「これから過ごす? 捕まったからには、地下牢とかに入れられると思ってたわ」

「……そんなことしたら、ナッチー怒らないですかぁ」

眉をしかめて、タママが夏美を振り返った。

「たしかに、黙って入ってあげるつもりもなかったけど。それに、今の、ナッチーって、なに?」

「あれ? ぼく、今までもそう呼んでたような……」

「確かに、呼ばれた感じも妙にしっくり来るわね」

夏美が頭に引っかかった違和感にたどり着く前に、目の前に古びた木の扉が現れた。

「着いた! ここですぅ」

タママが鍵を開けると、そこにはこの城の中とは思えない、女の子らしい部屋があった。
夜なのに部屋が明るく感じるのは、ぽっかりと浮かんだ満月が、石造りの窓から部屋を照らしているためだ。
天蓋つきのベッドや、カーテン、ソファなど、全てがコーラルピンクで統一されている。
感嘆のため息をつきながら部屋に入れば、ラグやクッションなどのインテリアも、
夏美が今まで暮らす中で見たことがないような上質の物だった。

「素敵……!」

「モモッチが用意させたですよ。フッキーのお姉さんは丁重におもてなししなさいって」

「あのお姫様? 桃華ちゃんって言ったわよね」

夏美は、どうやら冬樹と面識があったらしい、年若い姫の姿を思い出していた。

「あんたたち、どうして冬樹をここに来させようとしてるの? 何が目的?
 あの桃華ちゃんといい、あんたたちと言い、そんなに悪いように見えないんだけど」

「モモッチはともかく、僕たちは悪いといえば悪いですぅ! なんてったって、この星を侵略しに来たんですからね!」

えっへん、と胸を張って言うタママを、夏美は顔を引きつらせながら見ていた。

「話せば長くなるですが、僕たちはこの星を侵略しに来た宇宙人なんですぅ。
 このお城のお庭に宇宙船が不時着したから、このお城を拠点にして侵略を進める予定なんですぅ」

「……で、その隊長さんが、あの緑色のボケガエルってわけね」

「なんでわかったですかぁ」

「そういうのに、毎日迷惑かけられてた気がして」

がっくりとソファに座り込むと、夏美は天井を仰いだ。

「素敵なお部屋だけど、こんな塔のてっぺんじゃなければ、もっと良いのになぁ。階段疲れちゃった」

「でも、ここはお城の中でも一番景色が良いお部屋だって、モモッチが言ってたですぅ。
 何せ“あのお花”を移動してまでこの部屋を空けたんだから、ナッチーのことをどれだけ大切に思ってるか……」

「“あのお花”って?」

タママは慌てて口元を押さえると、早口で喋りだした。

「こ、この部屋にナッチーを連れてきたのは、ほんとは伍長さんの強い要望だったんですよ!」

「伍長……?」

「ナッチーがビンタした、あの赤ダルマですぅ。塔のてっぺんなら簡単に逃げられないし、
 自分が一番、監視しやすいからって」

「監視!? どういうことよ!」

部屋が覗かれているとなったらたまらない。夏美がタママに詰め寄ると、タママはおびえながら窓の方を指差した。
外を良く見ると、遠くの山や、その上に浮かぶ月より前に、細い糸のような煙が一本、立ち上っていた。
窓に近寄り下を見てみると、窓の真下、二階建てのベランダから地面ほどの距離に歩哨があり、
その角の少し広いスペースに、赤い小さなテントが張ってある。
テントの前では、あの赤いカエルが焚き火を目の前にして、銃を磨いていた。

「自分のテントが真下にあるから、逃げようとしてもすぐにわかるですって。
 じゃ、僕は失礼するです。明日の朝また起こしに来るですぅ」

タママはそれだけ言うと、部屋に鍵をかけて行ってしまった。
そういえば、この部屋に以前何があったのか、聞きそびれてしまった。
まぁいいか、と独り言を言って、夏美は再び窓の下を眺めた。

あの赤いカエル。ギロロ……と呼ばれていただろうか。自分に触ってきたのはとても腹が立ったが、
殴り飛ばした瞬間、何か、大切なことを思い出しそうな、そんな気がした。

窓の上から眺める茶色い頭は、手元の銃をいじっているだけなのに、スプレーを取ったり布を取ったり、
きょろきょろと忙しく動いていた。
嫌な相手だったはずなのに、その動きを見ていたら、なぜか微笑ましい気分になる。
焚き火の煙にに混じって流れてくる、何かの甘い匂いも、とても懐かしい感じがした。

「いつまで人の頭を見ている気だ」

突然、銃を脇に置いたかと思うと、茶色い頭が動いて夏美を見上げた。
夏美は驚いて窓枠から離れたが、おずおずと近づくと、改めて下にいるギロロを見た。
そのつり目はまっすぐに夏美を見上げていた。

「……気付いてたの?」

「俺は軍人だ。素人の気配に気付かないようでは、とっくに死んでいる」

「ふぅん。その素人に殴り飛ばされたくせに」

「あっ、あれは油断しただけだ!」

「まあいいけど。せいぜい監視の任務がんばるのね」

「余計なお世話だ。捕虜は大人しくしていろ」

「はいはい」

窓から離れた夏美の耳に、大きな舌打ちと、「生意気な女だ」という独り言が聞こえてきた。

「嫌なやつ!」

夏美もわざと聞こえるような大声で言うと、ベッドに倒れこんだ。

もちろん、ずっとここで大人しく捕まっているつもりはない。
しかし、逃げるなら、小雪が助けに来てくれたときに、混乱に乗じて行くのが得策だ。
その時にスムーズに事が運べるように、逃げる準備だけはしておかなければならない。
色々と考えているうちに、夏美は眠りに落ちていった。


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