■Detective G66:8
ケロロはぐるりと振り返ると、人差し指を斜め上に突き上げた。
その先には目を丸くした冬樹の顔があった。
「へ?僕?」
とたんにギロロが声を上げる。
「突然何を言い出すんだ、貴様は!」
「軍曹〜」
「まぁまぁ、冬樹殿、さっき説明したっしょ」
ケロロが小声で言うと、冬樹は黙り込んだ。
一つ咳ばらいをして、ケロロはギロロの方へ振り返る。
「えー、ではめんどくさいので簡単に説明を。
犯人は我輩のデジカメを持ち出し、夏美殿の入浴を撮ろうとしたが、
ギロロに捕まりそうになって逃げ出した。クルル曹長、そのとき警報は?」
「鳴ってないぜ」
「つまり敵性宇宙人の可能性は低いであります」
「貴様は冬樹が犯人だと言ったが、あの時、冬樹は風呂の外で夏美に声をかけて
いたんじゃなかったのか」
「そんじゃ、証拠いっこめ」
ケロロが背後から小さなラジカセを取り出した。
ボタンを押す。
『ねーちゃん、もうすぐご飯できるよ』
録音された冬樹の声が響く。
「これを脱衣所に仕掛け、夏美殿がこれに反応して立ち上がる瞬間を、
シャッターチャンスとして狙ったんでありますな。
自分の声ならアリバイも作れるし、一石二鳥!であります」
「冬樹、まさかお前……」
「ぼ、僕知らないよ!」
目を丸くしたギロロに、冬樹は慌てて首を横に振った。
「し、しかし、俺が見た人影はケロン人くらい小柄で、すばしっこい奴だ。
冬樹は小さくないし、すばしっこくも無いぞ」
「クルル、後ろに隠してるの出してみ」
ケロロが声をかけたとたん、ぎくり、と汗を流すクルルを横目に見て、
ギロロはその背後をまさぐった。
「あっ、いやん、そこは……」
「これは、ジンセイガニドアレバ銃!」
「ゲロゲロリ。つまり、犯人はこれで子供にされた冬樹殿。
やらせたのはクルル曹長、貴様でありますな」
「やはり貴様が!」
ギロロが再度クルルに掴み掛かろうとしたとき、クルルの身体が不意に宙へ浮いた。
見上げるとそこにはクルルの頭を掴んだ夏美が立っていた。
「ちょっと待ちなさいよ。ちゃんと何をやったか、知ってからでも遅くないでしょ」
夏美に言われてギロロは黙り込む。
クックッと笑うクルルの頭が、強烈に締め付けられた。
夏美の指がクルルの帽子にぎっちりと食い込んでいる。
「変なマネしないように、このまま聞いてもらうわよ」
「ク……」
「それで、ケロロ、どういうことなんだ」
ケロロは背中で手を組むと、ゆったりと歩きだした。
「まずクルルは冬樹殿を子供にし、我輩のデジカメでお風呂を撮影させるはずだった。
自分はモア殿とアリバイ作りをしながらね。
そして冬樹殿が戻るころ、モア殿には理由を付けてラボを出てもらい、
冬樹殿を元に戻して記憶も部分消去。以上であります!
何か言い分はあるかね、クルル曹長」
「……証拠はあんのかよ」
「往生際の悪いことでありますな」
ケロロは大袈裟にため息をついたが、ギロロは納得が行かない様子だ。
「クルルの肩を持つわけではないが、あのチビ冬樹がクルルの言うことを聞くとは思えんぞ」
「もちろん、理由はあるでありますよ。証拠にこめ〜」
言いながら、ケロロはどこに隠していたのか、薄い箱を取り出した。
「なんだそれは?」
「チッ……そこまで気付いてたのかよ」
クルルは言うなり夏美にぶら下げられたまま笑い出した。
「うまく行くと思ったのによ〜」
「ちょっと待て、何なんだその箱は?」
「パキモンカレーだよ」
答えたのは冬樹だった。
「小さい子に人気のレトルトカレー。
これに付いているカードが、小さい頃すごく流行ったんだ。」
冬樹は自分のポケットからキラキラ光るカードを3枚取り出した。
「これ、いつのまにかポケットに入ってたんだ。
僕はこのレアカード3枚に釣られたんじゃないかな」
「その通りだぜ。そのキラレアはレア中のレアだからな」
「元に戻った僕はそんなこと全く覚えてなくて、
ねえちゃんに急かされて、そのへんにあったレトルトカレーを夕食にしたんだ」
「だからお子様用の甘いカレーだったのね」
夏美は感心したように頷いてから、すぐ横から発せられるオーラに気付いてたじろいだ。
ギロロが両手に拳を握ってクルルを睨み据えている。
「貴様、冬樹まで使って夏美を……絶っ対に許さん!」
「私も言いたいことが山ほどあったのよ、ね……覚悟しなさい!」
「ク……クック……」
クルルの笑い声は、ギロロと夏美のおしおきに紛れて途切れた。
「こればっかりは自業自得であります。冬樹殿、あのカレーまだある?」
「あれで全部だよ」
「じゃあ今度でいいから、たまにはあれが食べたいでありますよ」
「おっけー、また今度ね」
断末魔のような叫びを聞いて、冬樹は苦笑しながら先に出ていくケロロの後についていった。