■Who's baby!?:5
子守歌のようなハミングが聞こえる。
柔らかな空気を壊さないように、慎重にドアを開けた。
ソファに座った夏美は膝に赤ん坊を載せていた。
右手で頭を支え、左手でリズムを取るように、静かに腹の辺りを叩いている。
伏し目がちなその表情は、まるで聖母のようだ。
思わずその様子にみとれてしまった。
「ギロロ伍長!」
「わ、わかっている」
耳元からの通信に小声で答えると、夏美に気付かれてしまった。
顔を上げてこちらを見ると、人差し指を口の前に立てた。
「やっと寝てくれたのよ」
「そうか」
二人揃って赤子の顔を覗き込む。
その無垢な寝顔は寄生型宇宙人とはとても思えない。
「ねぇ……ギロロ」
「なんだ」
「私ね、いま、すごく幸せよ」
言いながら俺を見て微笑んだ。
「ギロロとこうして、こんなかわいい子供が持てて……」
「そ、そうだな」
っって違うだろ!俺!
茹で上がりそうな脳みそごと頭を振って、俺は夏美の肩に手をかけた。
「夏美、実はこの赤ん坊には病気の可能性があるんだ」
「え……」
天使のような笑顔に戸惑いの影がさす。
俺は喉の奥から声を搾り出した。
「検査のために、一度預からねばならない」
「いや!」
夏美は膝の上の子供に覆いかぶさった。
子供はいつのまに目覚めていたのか、夏美の腕と体の隙間から潤んだ目を覗かせている。
「この子のためなんだ」
お前のためなんだ、と心の中で言い換えた。
「俺に渡してくれれば悪いようにはせん」
「でもいやなの!」
「俺はこいつの父親なんだろう。それでも信じられないのか?」
夏美は顔をふせたまま応えない。
「夏美……」
俺は夏美の後頭部をそっと触れるように撫でた。
こわばっていた夏美の体が弛緩したように見えた。
「この子の両親である前に、俺とお前はたくさんの戦いを
信頼で乗り越えてきたパートナーじゃないか」
夏美はゆっくりと顔を上げてこちらを見た。
その瞳には意志の光りが戻りつつあるように見えた。
「俺を、信頼できないか?」
「ギロロ……」
「俺を信じろ、夏美」
頷いた夏美の目には強い光りが宿っていた。