■Who's baby!?:6


「さぁ、その子を俺に渡せ」

夏美が俺に向かって小さな体を持ち上げると、赤ん坊はとたんに大声で泣き出した。
夏美はそれに一瞬怯む。
俺は子を持つ夏美の両手に自分の両手を重ねた。

「心配ない」
「うん」
「俺とお前の子供なんだからな」

夏美はふんわりと笑った。
そして子供が俺の手に渡った瞬間、耳元で声がした。

「おっさん、いくぜ」
「ま、待て、俺の準備が」
「この機を逃すわけにはいかないんでね!洗脳解除式超音波発射にょ〜。ポチっと!」

とたんに天井からスピーカーのような機器が現れ、ギロロたちに向かって超音波を発した。

「ぐあああぁぁぁっ!」
「きゃあああぁぁぁっ!」

波のように襲い掛かる不快感に、赤ん坊もたまらず泣き声を張り上げている。
俺の意識はそのあたりで途切れた。





「ったく、まーだ寝てるでありますよ。ギロロ、ギーローロ!」

甲高い声で意識が引き戻される。
俺が起き上がるとケロロが眉をしかめた。

「やっと起きたでありますか。せっかく耳栓渡しといてやったのに!」
「なに……両手に赤ん坊を抱いて、そんなに素早く装着できるか!」
「まぁ成功したからいーんじゃね?」

クルルが鼻に指を突っ込みながら言った。
こいつ、絶対わざとやりやがった。
拳に溜めた怒りを発散しようと立ち上がった瞬間、腹の上からタオルケットのような物が落ちた。

「……ん」
「あんたね、人の膝で眠っといて礼の一つもないわけ?」

声がした方へ振り向くと、すぐ目の前に夏美の顔があって、俺は飛び上がった。
ここはよく見ればソファの上、そして自分の位置、夏美の今の発言。

膝で……膝……膝まくら!?

俺はまたその場に倒れ込んだ。
夏美は苦笑して、俺の頭を再度膝の上に載せた。

「今回のことで、夏美殿からのご褒美でありますよ」
「覚えてないんだけど、助けてくれたんでしょ?
 ちょっと恥ずかしいけど、こんなことで良ければ多少は我慢するわよ」

下から見上げる夏美は少し顔を赤らめているように見えた。
俺は夢心地でまなじりを下げた。

「デレデレですぅ」
「幸せそうでござるな」
「あーあ、なんかどーでもいーであります。
 早く基地に戻って、あの赤ん坊を迷子として宇宙警察に届けるでありますよ」

ぞろぞろと出ていく背中を見送って、夏美がつぶやいた。

「赤ん坊……赤ちゃん?」
「覚えていないなら、思い出さんほうがいい」
「なんか……」

言い淀んだ夏美を見上げると、顔に雫が振ってきた。

「何も思い出せないのに、なんで……?すごく寂しい……」
「夏美」

俺は手を上げて夏美の頬を伝う涙を拭った。

二人きりのリビングで、時折揺れるカーテンが、夏美の顔に影を落としては翻る。
そのたびに涙の筋がきらきら光った。
思わず涙の跡に触れる。
「お前のその寂しさは、いつか俺が埋めてやる」

夏美は泣き笑いの表情で言った。

「ありがと、ギロロ」


■Who's baby!?:END


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