■peace of reading:2


ギロロは次第に話へ没頭していった。


今から何十年か前に起こった世界的な戦争で、この国も軍国主義を掲げて戦ったのだと言う。

(信じられん、この平和ボケした国がか)

その中で、多くの若者の命が失われた。

(戦争なら仕方あるまい)

主人公の青年は、結婚を約束した娘がいたが、徴兵されてしまう。
婚約者は体が弱く、戦争で物資が足りない中、体調を崩してしまった。

(軟弱な……)

病床で男の名を呼びながら、娘は息を引き取ったのだった。

(なっ……)

最前線で戦う男はそれを知らないまま、敵の凶弾に倒れてしまった。

「うおおぉ……」
「あー、ほらギロロも泣いた〜」
「泣いとらん!これは汗だ!」

小さな手で顔をごしごしこする。そのしぐさが子供のようで、夏美は微笑んだ。

「悲しい話なんだけどね、戦争はだめだよ、って教訓なのよ」
「こんな古くさい侵略は、俺達は絶対にせんぞ」

ギロロは夏美に本を突き返すと、腕を組んでふて腐れたようにそっぽを向いた。
夏美はそんなギロロの後頭部を、苦笑しながら軽くつつく。

「ほらギロロ、そんな怒らないの」
「怒ってなどおらん。圧倒的な武力によって抵抗する余地もないほどに
 ペコポン人どもを震え上がらせるという作戦について考えているだけだ」
「ふーん。でもさ」

夏美は本を机に置き、ギロロの肩に手をかけた。小さな肩はなぜか触れるとびくっと跳ねた。

「こうして、敵同士の私たちでも、一緒に本が読めるのよ。
 これって実はすごいんじゃない?」
「あ、ああ、そうかもな……」
「よし、宇宙的友好の記念にスターフルーツでも切ろう!」

夏美は立ち上がってキッチンへ行き、冷蔵庫から冷やしておいたスターフルーツを取り出した。
ギロロは目の前の冬樹に尋ねる。

「友好記念にスターフルーツ?ペコポンの風習か?」
「いや……。姉ちゃんって時々、わけわかんないよね」

夏美はそんな二人にお構いなしで、ギロロを呼んだ。

「ここに立って、包丁持って」

椅子の上に立たされて、包丁を握る。
すると脇から夏美の手が伸びてきて、ギロロの手ごと包丁を握った。

「んなっ、夏美!?」
「よくあるじゃない、テープカットみたいなの。
 今日は同じ本で泣いた友好の証に、このスターフルーツを一緒にカットするわよ」
「だから俺は泣いていないと言ってるだろうが」
「はいはい」

夏美は力を込めて刃先を沈めた。
そこへ、玄関の扉が開いた音がした。

「たっだいまーであります!冬樹殿、新発売のHG3個も買っちゃった〜」

満面の笑顔で居間のドアを開けたケロロの目に、寄り添うギロロと夏美が映る。
二人とも、真ん丸な目でケロロを見返した。

その時包丁がまな板まで通り、スコンッという音が間抜けに響いた。

「お二人、なにやってんの?」
「スターフルーツ…入刀……」
「なにそれ?披露宴のマネ?」
「ひ、ひ、披露宴!?」

二人が同時に固まる。

「よくわかんないでありますな。じゃ、スターフルーツ切ったら後でちょーだい」

羽根でも付いていそうな足取りを見送って、夏美はギロロから包丁を取り上げた。

「……なんか、浮かれすぎちゃったわね。ギロロ、もう戻っていいわよ…て、ちょっと!!」

気がつくと、手元のスターフルーツまでギロロの鼻血で真っ赤に染まっていた。

「あんた、外の暑さでのぼせたの!?あーん、これじゃもう食べられないじゃない!」
「あ、ああ……ナツミ……俺と……」
「もう、しっかりしなさいよね!」

スターフルーツが食べられなかったケロロは怒ってしまったが、 ギロロとしては幸せな午後のひと時だった。


■peace of reading:END


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