■peace of reading:1


太陽は空の真ん中に居座って、凶悪な日差しを地上へそそいでいた。
手元の銃さえ熱を持ち、肌を焦がす。ギロロは日課である銃の手入れを諦めた。

日向家は午前中に図書館へ行っていた冬樹が帰宅し、昼食を終えたところだ。
片付けを終えた姉弟は、クーラーのある居間で思い思いに過ごし始めたようだった。
風はそよとも吹かず、風鈴も鳴らなかった。室外機のファンの音さえ忌ま忌ましい。

毎日外で過ごす彼は、今から2時間が一番暑い時間だと肌で覚えていた。
今日は諦めて、テントの中で大人しく過ごそうか、と腰を上げたところだった。

……っぐす、ずずっ

涙をこらえ、鼻をすするような音を聞いて、ギロロは弾かれたように振り向いた。
窓を力いっぱい横に開く。

「夏美っ!どうした!?」
「へ?」

泣いていたはずの夏美は、間の抜けた表情で突然の侵入者を迎えた。
目のふちは赤いが、雰囲気が穏やかなものだ。

「夏…美……泣いていたのではないのか?」

夏美と冬樹は顔を見合わせた後、唐突に笑い声を上げた。

「伍長、姉ちゃんは本を読んでたんだよ」
「なに?本だと?」
「夏休みの宿題。感想文を書くのよ」

残った涙を指でぬぐいながら夏美が言う。そのしぐさが大人びていて、
ギロロは赤くなって目を逸らした。

「本ごときで泣くなど、馬鹿らしい」
「なによ。これ読んだらあんただって絶対泣くわ」
「男がそんなことで泣くか!」
「だったら読んでみなさいよ」

夏美に本を差し出しされても、ギロロは腕を組んで窓の外から動こうとしない。

「ていうかそこで窓開けてると冷気が逃げちゃうんですけど」
「伍長も、とりあえず入りなよ。外暑いしさ」

じりじりと照り付ける太陽が、ギロロの背中を押した。

「ふん、付き合ってやるか」

本をひったくると、それを抱えてソファへ飛び上がる。
開いていた夏美の隣に座り、表紙を開いた。
ふと横を向いて言う。

「お前が読みかけていたんじゃないのか」
「今読み終わったとこよ。誰かさんのおかげで余韻がぶち壊し〜」
「悪かったな」
「そういえば、あんた日本語読めるの?」
「読めなきゃケロロはあんなにぐうたらマンガなど読んでいないだろう」
「そりゃそうね」

夏美は読み始めたギロロに寄り添うように、上から手元の本を覗き込んでいる。

(なんだかんだ言って、仲良いんだよなぁ、この二人)

冬樹はにっこり笑うと手元のオカルト本に視線を戻した。


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