■侵略者の個人的事情:2
前方に見える町並みに目を向けながら、夏美が言う。
「あんたやボケガエルを見てると、毎日好きなことしてて羨ましく感じること、あるんだ」
「ケロロの奴と一緒にしないでくれ」
「あんたの武器いじりは仕事かもしれないけど、あいつのガンプラはほんとに趣味だもんね」
「しかし、お前の言うこともわからないでないぞ。
軍人はいざという時に命を張る分、待機中はのんびりしているものだ」
「へぇ〜、いつものくだらない作戦じゃ、あんまり命張ってるようには見えないけど」
反論できず、ギロロは腕を組んで視線を反らした。
夏美はそんなギロロを見て微笑むと、側にしゃがみ込んだ。
「でも、なんだかんだ言って、あんたには何度も命掛けで助けられてたわね。
あんたの仕事じゃ私は敵なのに。なんで?」
「それは……んなっ!」
ギロロがその言葉に振り返ると、目の前に夏美の顔があったので真っ赤になってのけぞった。
「そんなに避けないでよ。今は二人しかいないんだから、敵も味方も無いでしょ」
「し、しかし」
「私も『地球最終防衛ライン』やってるけど、ギロロ自身が悪い奴じゃないってわかってるわ。
私を助けてくれるのも『侵略宇宙人のギロロ』じゃなくて、ただの『ギロロ』なんじゃない?」
好きな女を守る理由など、ギロロは考えたこともなかった。体が勝手に動くからだ。
夏美を守るゆえに、作戦を妨害してしまうこともあった。
それで随分悩み、落ち込んだこともあったのだが。
「そうだな。侵略は仕事。個人的には……夏美、お前のことが、す……」
「す?」
「す……」
変な汗を流しまくるギロロを、夏美は無邪気に首をかしげて見守る。
「す……す、凄い奴だと思っているからな!」
「凄い奴ぅ?」
「そうだ!お前を倒すのはこの俺だから!それまでは死なれちゃ困るんだ!」
「凄い、ねぇ。女の子に向かって言うセリフじゃないわね」
「うっ……」
固まるギロロを見ながら、夏美はふと思った。
(なんで私、こんな不満なんだろ?っていうか、どんな答えが良かったわけ?)
そしてギロロと目が合うと、じっとその目を見つめた。
視線をそらすことができなず、ギロロはたまらずに口を開く。
「な、なんだ……?」
夏美はぱっと目を見開くと、もう一度ギロロを上から下まで見て、
急に頬を赤らめると立ち上がった。
「ないないないない!」
首を左右に勢いよく振っている。
ギロロはますます訳がわからなかった。
「夏美……?」
「ギロロ!帰ろ!」
「あ、ああ」
夏美は振り返りもせず、階段の方へと大股で進んで行く。
ギロロは慌ててそれを追いかけた。
「夏美!帰ると言っても、俺はボードで来たんだぞ」
「あ」
それじゃあまた後で、と言いそうになった夏美を、ギロロの言葉が止めた。
「乗って……いくか?」
「え?」
「嫌ならいい!ただ、俺も帰るところだったからな」
慌てて両手を降るギロロの赤い顔が、なぜか夏美にはとても微笑ましく映った。
「じゃあ、お願いしよっかな」
「そうか!よ、よし!」
ギロロは階段室の屋根に飛び乗り、貯水タンクの上に上がると隠していたソーサーで降りてきた。
「アンチバリアに、予備の階級章を渡しておく。しっかり掴まれよ」
「うん」
文字通りしっかり掴まられ、ギロロは目尻を下げた。
「い、いくぞっ」
二人を乗せたボードは、左右に振れながらも飛び上がった。
「今日は風が強い。二人乗りで重心が安定しないから、振り落とされるなよ」
「うん。でも、落ちてもギロロが助けてくれるでしょ?」
「……ああ。個人的にな」
ギロロがちらりと夏美を振り返る。
二人は目を見合わせて笑った。
■侵略者の個人的事情:END