■Beauty & Invador:1
昼間だというのに、その森は薄暗く、下生えのない地面は溶けた霜でぬかるんでいた。
冬にも葉を落とさない針葉樹たちがまっすぐに伸びて、空を覆っている。
「いや〜な感じ」
夏美はすっぽりと被ったローブのフードを引き上げた。
小雪は狩りをするような軽装に、弓矢をかついで夏美の横を軽やかに歩いていた。
「私、西の森に入るの初めてです!」
「禁断の森だもの。ばれたら怒られるどころじゃすまないわ。でも冬樹はここだって言うんだもの」
「『魔法の城』、ですか」
「村のみんなはただのオカルトだって馬鹿にしたけど、冬樹はちゃんと文献を調べて言ってるのよ」
夏美はローブに隠れた拳を握りしめる。
「みんな、冬樹は本ばかり読んでるって馬鹿にするけど、
その『魔法の城』っていうのを見つけて、絶対認めさせてやるんだから!」
「はい!私もお手伝いします」
「ありがと、小雪ちゃん」
二人は薄暗い森を歩きつづけた。
烏の泣き声さえ聞こえず、時折何かの羽ばたく音が木々の間を飛び交った。
日暮れが迫り、ただでさえ暗かった森に闇の気配が満ちる。
「小雪ちゃん、今日はこれくらいにしよっか……」
「それが、夏美さん」
歩みを止めた夏美の数歩先を行っていた小雪は、青い顔で振り返った。
「今、森の出口に向かっていたはずなんです」
「そんな!」
「私が方角を誤るなんて……あっ、夏美さん!」
小雪が指差した先に、尖った屋根の先端が、木々の上にわずかにはみ出しているのが見えた。
「あれ、まさか、お城!?」
「夏美さん、待って!」
小雪は駆け出した夏美の後を慌てて追った。
二人の去った後、陰湿な笑い声がかすかに響いていた。