■FULLMOON


真ん丸な月が浮かぶ夜。

星たちはなりを潜め、空は月の輝きに満ちていた。
心なしか夜の闇がいつもより薄い。

「いい宵でござる」

電柱の上から街を見渡していたドロロは、日向家の屋根に目を向けた。
するとそこには、大小の不揃いな影が見える。
寄り添う二つのそれを見て、ドロロは微笑んだ。





「珍しいな、お前が屋根に上がりたいなんて」
「そう?あんまりお月様がキレイだったから」

夏美は後ろに両手をついて空を見上げた。

「あまり動くなよ。落ちるぞ」
「じゃあ、落ちないように押さえておいてよ」

夏美は座りなおすと、ギロロのすぐ脇に片手を置いた。

「押さえる?」
「あんたじゃ重しにならないけど、落ちそうなときに手を掴んでおくくらいならできるでしょ」
「ああ」
「じゃあ、手」

ギロロの脇に置かれた手がぱたぱたと屋根を叩く。
ギロロは恐る恐る自分の手を重ねた。
暗がりでもわかるくらいに顔が赤い。
それをごまかすように慌てて口を開いた。

「そ、そんなに月が見たいなら、今度はソーサーで上空まで連れていってやる」
「今日はだめなの?」
「風が強すぎるからな。見ろ、雲の動きが早いだろう」

確かに先程から薄い雲が時折、月の光を遮っては通りすぎていた。

「いいわ、じゃあ今度、約束ね」
「ああ」

ギロロはいつもの激しい動悸を伴うような気持ちではなく、
じんわりと暖かい気持ちになって、重ねた手に力を込めた。

先程よりも厚い雲が月を横切る。
光が遮られて、二人を影が包んだ。

「ねぇ……ギロロ」
「なんだ」
「地球ではね、満月は人を狂わせるって言うの」
「月はただの天体だろう、土着信仰の類か?」
「私もよくわからないけど……」

視線を感じて、ギロロは夏美を見た。
その瞬間、月に掛かっていた雲が去り、月光が夏美の顔が照らされた。

月明かりでもわかるくらいに頬が上気し、眉根を寄せてギロロを見つめている。

ギロロの心臓が跳ねた。

「あんたの手、なんでこんなに熱っぽいの?私、なんかすごく……ドキドキして」
「夏……美!?」
「ねぇギロロ、キスって……したことある?」
「キ……キ……!?」

夏美の顔がギロロに近づく。
そんな二人を隠すように、雲が月光を遮った。

夏美は自分に言い聞かせる。
これは、満月のせいなのだと。



■FULLMOON:END



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