■Call my name
昨日まで続いた長雨が止み、久しぶりに見た星空は、いつもより輝いて見える。
ギロロは視線を落とすと、湿った薪が音を立てて爆ぜるのを、じっと見つめていた。
「ギーロロ」
がらりと窓を開け、夏美が出てくる。
夕食の片付けが終わったところなのだろう。
居間からは冬樹とケロロがテレビを見ながら談笑する声が聞こえていた。
「意外と寒いわね」
「またそんな薄着で来たのか」
「だって上着取って来るのめんどくさくて」
夏美はたき火に当たりながら微笑む。
「いつも言っているが、俺が使っている毛布くらいしかないぞ」
ギロロはブロックから腰を上げると、テントから毛布を取り出し、夏美の肩にかけた。
夏美はこっそり毛布にほおずりしながら、その言葉を聞き流していた。
「いつも大丈夫って言ってるでしょ」
「きれいな物ではないからな」
「そんなに気になるなら明日、洗ってあげるわよ。久しぶりの晴れだし」
「遠慮する。乾かなかったら俺が風邪をひくだろう」
「それなら私の部屋で寝ればいいじゃない」
「んなっ!?」
とたんに湯気を出して、ギロロは暗闇でもわかるくらい真っ赤になった。
「なによ、私は平気よ。付き合ってるんだし」
「おっ、俺が平気じゃない!」
「変なことしないでしょ?付き合うことになっても、
そういうことは大人になってから、って言ったの、ギロロだよね」
「だからだ!」
いくら自分が我慢強い方とはいえ、愛する者と一晩一緒で、何もしない自信は無かった。
「……別に私は、いいのにな」
「? 何か言ったか」
「そもそも、あんたさぁ」
夏美は急に低い声で言う。
「ほんとに私のこと、好きなわけ?」
「はぁ?」
ギロロを横目で睨みながら、夏美は続けた。
「だって、あれから付き合ってるのに、『好きだ』とか『愛してる』とか、
一度も言ってくれたことないじゃない」
むくれた横顔をかわいらしく思いながらも、ギロロは鼻を鳴らした。
「フン、男がそんなことを軽々しく言えるか」
「言ってくれなきゃわからな……」
夏美の肩が強い力で引かれて、言葉を紡ぎかけていた唇が強く塞がれた。
しばらくしてギロロが離れると、夏美は頬を赤らめながらも唇をとがらせてつぶやいた。
「そうやってごまかすんだ。キスは大人じゃなくても、しちゃってもいいわけ?」
「お前がうるさいから、口を塞いでやっただけだ」
「なによそれ!」
夏美は羽織っていた毛布を握りしめた。
「もういいわ、言葉で言ってくれるまで、この毛布は返してあげない!
部屋にも入れてあげないんだからね!」
いつのまにか涙目になっていた瞳を、オレンジ色の炎がちらちらと泳いでいた。
ギロロはため息をつくと、頭から湯気を出しながら、夏美を抱きしめた。
そして、耳元で囁く。
「俺はいつでも、どんなときでも、お前を想っている。だから、そんな言葉には意味が無い」
「だけど……っ」
「どうしてもと言うなら、夏美、俺がお前の名を呼ぶ声をよく聞け」
抱きしめる腕に一層の力をこめた。
「俺はお前の全てに惚れている。だからお前の名を呼ぶときは、
その……あ、愛している、だとか、そういう意味が自然とこもっている。
つまりだな、そういうセリフをお前に言うのと同じだ」
「ギロロ……」
夏美は目を閉じて、ギロロの背中に両手を回した。
「じゃあもっと、夏美って呼んで」
「夏美」
「もっと」
「夏美」
「もっと」
「夏美」
「もう一回」
「……夏美」
「もういっ……」
しつこいとばかりにまた唇が塞がれて、辺りに静寂が訪れる。
夜空に輝く星たちだけが、重なる二つの影を見下ろしていた。
■Call my name:END
*888HIT 芥子さまリクエスト
「ギロ夏で恋人又は夫婦もの 出来れば甘めで」
とのことでした。このお話は芥子さまへ捧げます。ご希望に添えましたでしょうか?
このたびはリクエストありがとうございました!