■自転車に乗って


ぱちぱちと爆ぜるたき火の音をBGMに、バズーカの砲身を磨いていると、物置の影からがたがたと音がした。
ギロロは手を止め、視線だけをそちらに向けた。
少し前、夏美がそこに入って行ったのは見ていたのだが、いちいち何をするのかなどと聞くのもはばかられて、
黙って座っていたのだ。

そのうちもう一度大きな音がして、夏美の小さな叫び声が聞こえた。

「夏美っ!どうした!?」
「あーん、ギロロ、いるならちょっと手伝って」

光の速さで跳んで駆け付けると、夏美は埃にまみれながら、何かを引きずり出そうとしていた。

「怪我はないか」
「大丈夫よ。それよりこれ」
「わかった。どいてろ」

ギロロが力を込めてそれを引っ張り出すと、勢いをつけすぎたのか、引き出したとたん横倒しに倒れてしまった。
錆び付いたそれは、車輪が二つ付いていて、乗り物のように見えた。
夏美はそれを立て直すと、スタンドを立てて固定した。

「やっと出たわね。ギロロ、ありがと」
「これは?」
「自転車よ。今使ってるのがパンクしちゃって。ちょっと遠くのスーパーでお米が安いんだけど、
 買いに行くのに足が無いのよ」
「なるほど。それで古いのを引っ張り出したというわけか」
「空気入れれば使えるはずだから」

夏美は物置から空気入れを出し、タイヤに繋いだ。
ギロロは何も言わずにポンプを押し、空気を入れはじめた。

「いいわよ、あんたの身長じゃ力入らないでしょ」

確かに上からバーを押し込むタイプのポンプは、小さなギロロには重労働だった。
しかしギロロは血管を浮き上がらせながら、T字型のバーを引き下げ、空気を入れていく。

「こういうのは……大人の……男の……やること……だっ」

合間にぜぇぜぇと荒い息を挟みながら話すギロロに苦笑しながら、夏美はその脇にしゃがみこんだ。

「あんたくらいよ。私のこと、女の子として扱ってくれるの」
「お前は……女で……子供……だろうがっ」
「うん。でもね、ママや冬樹にとっては頼れる娘やお姉ちゃんだし。
 ボケガエルに至っては、ナツミゲドン、なんて呼んでくるし」

前輪は良い具合に空気が入ったようで、夏美はホースを後輪に付け替えた。
ギロロも一息付けたようで、額に浮いた汗を拭った。

「お前がしっかりしているのは知っているが、それとこれとは話が別だ」
「そうかな」
「大体お前は一人で何でもやろうとしすぎる。たまにはまわりを頼ることも考えろ」

ぶっきらぼうな言い方が、その優しさを余計に際立たせているように感じて、夏美は自然と笑顔になった。
ギロロはそれに気付かず、セッティングが終わったポンプに取り付いて、後輪への空気入れを始めていた。

「頼らなくても、助けてくれる人がいるから、いいんだもん」
「はぁ?」
「だーかーら、困ったときは、ギロロがこうやって、助けてくれるでしょ」
「それは……そうだが」
「じゃあ、それでいいじゃない」

ニコニコと笑う夏美を見て、ギロロは言いかけた言葉を飲み込んだ。
後は黙々とポンプを動かすだけだ。空気はすぐにいっぱいになった。

「ありがと、ギロロ!じゃあ行こっか」

夏美はサドルやハンドルを綺麗に拭くと、ギロロに笑いかけた。
息も絶え絶えに座り込んでいたギロロは、返事するまでに時間がかかった。

「……へ?」
「お買い物。付き合ってよ」
「あ、ああ、構わんが、ペコポン人スーツでか?」
「見えなくなってくれれば、そのままでいいわ。荷台でお米を押さえてて欲しいの」
「そんなことか」

既に息の整ったギロロは、アンチバリアを作動させながら、自転車を押していく夏美の後について庭を出た。
道に出たところで、夏美は自転車にまたがった。
ギロロは荷台に飛び乗ると、夏美に背を向けてあぐらをかいて座り込んだ。
振り返ってそれを見た夏美が眉を吊り上げる。

「ちょっと、そんな乗り方で落ちちゃったらどうするのよ。はい、こっち向いて」
「へ?ああ」

ギロロが夏美のほうを向くと、突然伸びてきた夏美の手が、ギロロの両腕を夏美のウエストに回させた。
自然と身体が密着し、ギロロは抗議の声を上げた。

「おい!こんなことしなくても……」
「いいから捕まって。行くわよ!」

夏美がペダルをこぎ出すと、自転車はギロロの思っていたよりずっと早いスピードで動き出した。
思わず腰に回した手に力が入る。

「スーパーに着いたら、お芋買うから、後で焼いてくれない?一緒に食べましょ」
「ああ」
「いつも……ありがとね、ギロロ」

返事は無かったが、背中から伝わる熱を感じて、夏美は心の中まで温められた気がした。



■自転車に乗って:END



  *3000HIT 桑田よしのさまリクエスト

   「ギロ夏の小説を御願いします><* 内容はほのぼの系がいいです!!!」

   ということで、うちのいつも通りの雰囲気のお話になりました。
   ちょっと夏美がわがまますぎたかな?とも思いましたが、ご希望に添えましたでしょうか。
   このお話は桑田よしのさまに捧げます。リクエストありがとうございました!




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